トンヌラ頑張れ。超頑張れ。

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

*    *    *

Information

□ トンヌラ王子の冒険 □

神子・1

 激しく吹きつける吹雪が、視界を真っ白に染め上げていた。
耳元にはただごうごうと唸る風の音。狂おしく舞い落ちる雪に、前を行く王子の足跡は
瞬く間に消されてしまう。僕はただ必死に目をあけて、彼の背中を見失わないように
歩を進める。……けれど、いつの間にか随分距離は開いてしまって。
「あっ……」
雪に足をとられてぐらりとバランスを崩す。すると王子は素早く駆け戻ってきて、倒れ掛かる
僕の身体を抱きとめてくれた。
「大丈夫か」
「……ありがとう」
逞しい腕の感触に身を委ねながら僕は頷いた。
「もうすぐ祠に着く……それまで、少し辛抱してくれ」
「うん」
王子の肩を借りて歩きながら、僕はそっとお腹に手をあてた。厚手の服を何枚も重ねたうえに
毛皮のコートをまとっても寒さは肌の下に忍び込んでくる。
僕は我慢できるけれど……しかしそんな心配はいらないというように、僕の手は力強く
押し返された。よかった、と僕はほほえむ。やっぱり、あなたは王子の血を引く子供だものね。

  八ヶ月を過ぎて、僕のお腹は目だって大きくなっていた。でっぱりの位置も少し
下がって、いっときの胸苦しさもだいぶなくなっている。
 僕のお腹に子供が宿ってから、王子はおどろくほど優しくなった。お腹が冷えないように
高価な着物をそろえてくれ、少しでも僕の具合がよくないときは行軍を中断して薬草を
煮てもくれた。僕は正直、はじめのうちはその豹変に戸惑っていた。
……どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう?油断させておいて、なにかひどいことを
されるんじゃないだろうか。だけどやっぱり嬉しかったから、すぐに理由なんてどうでも
よくなってしまった。

(王子は、自分の家族が欲しかったのかな)
僕は漠然とそんなふうに考えていた。妾腹に生まれ、政治のためいいように利用され続けて
きた彼。王子のまわりには本当の肉親らしい人は誰もいなかった。だから愛してあげられる
存在が、ただ欲しかっただけなのかもしれない。それなら僕も過去のことは忘れて、
せいいっぱい彼とこの子を愛してあげよう。僕はひっそりそう誓った。

 思えばあれだけの辱めを受けてなお、何故こんな気持ちになれるのか自分でも
不思議だった。赤ん坊を宿すなんて、『王子』としての自分をまるきり否定するに他ならない。
だけど今の僕はなぜかとてもおちついた気持ちになっていたのだ。もしかして、これが
母性本能というものなのだろうか。だとすればおかしなものだ、両性具有者の僕がそんな
心持ちになるなんて。……やはり王子がさんざん言ったように、僕はただ出来損ないの女に
すぎなかったのだろうか。

  一年中雪に閉ざされたロンダルキアにはごく僅かな期間を除いて太陽は昇らない。
年間を通して荒れ狂う吹雪と極寒とが支配する、まさに死の大地だった。それでもこの地に
住んでいる人達がいることに僕は驚きを禁じえなかった。
 下界と切り離されるような長い長い洞窟を抜け、雪原を歩いたすえに僕らは祠に辿りついた。
祠といってもかなり大きなもので、サマルトリア城下にある聖堂よりも立派な大天井には
壮大な壁画が描かれている。
「うわあ……」
壁画に見とれていると、王子が僕を呼んだ。
「こっちへ来て服を乾かせ」
「あ、うん」
広々とした祠のまん中ではかがり火が焚かれ、誰もいない堂内をあたたかく照らし出していた。
「身体の具合はどうだ」
「ありがとう、だいじょうぶだよ。僕も赤ちゃんも」
「そうか」
王子は僕の言葉にかすかに微笑んだ。思えば、彼がこんな表情を見せてくれるように
なったのも僕の妊娠を境にしてのことだった。
「ねえ、ここはいったい何なの?こんな場所に祠があるなんて、どうして知っていたの」
思えば目印もろくにない雪原を、彼はまるで何かに導かれるようにまっすぐここを目指して
進んでいたのだ。
「……ここは……ロンダルキアの民が、神への祈りを捧げるための場所だ」
「えっ……」
僕はもう一度天井をふり仰いだ。神々しいばかりの天地創造図は巧みな技法により、雲の
上にまで続いているように見える。それは実に見事な絵画だった。
「だって……おかしいよ、この地に住む人達は邪悪な異教の神をあがめているって……」
少なくとも僕は幼い頃からずっとそう言い聞かされてきた。ゆえにこの地は不浄で、他の領土と
交流することも殆どないという。
「邪教か……」
何故か王子はくっくっと喉の奥で小さな笑い声をたてた。
「なにが可笑しいんだよ」
「……自らの教えにそぐわぬものは須く邪悪なもの――それがお前達の教義なのだろう。
 その是非は如何にあろうとも」
「ど……どういう意味?」
「来い」
 王子は僕の手をひいて階段を降りて行く。祠の地下にはさらに広い空間が広がっていた。
壁に彫り込まれたレミーラの呪詞により、そこは蛍火のような幻想的なあかりで満たされていた。

「これが、彼等の神だ」
王子は祭壇に聳える巨大な像を指して言った。
「な……」

――それは、見るからに邪悪な姿をしていた。びっしりと全身に生えた荒い鱗。六本の腕。
ある種の爬虫類に似た口は大きく裂けて尖った牙がずらりと覗いている。背中には巨大な
蝙蝠の羽を背負って。
「や……やっぱり、邪神を崇拝しているんじゃないか」
僕は思わずそうつぶやいた。『神』の姿はまるきり聖書に出てくる悪魔そのものだったからだ。
「そう、お前たちにはそう見えるだろうな――だが、彼等の教えではこの姿にもきちんと
 意味がある。神シドーは新たな創造のために破壊を行う。そのとき穢れ果てた衆生の
 罪を一身に背負ってこのような姿になるのだ」
「衆生の……罪……?」
「傲慢、貪欲、淫乱、怠惰……人々の犯す罪の全てを、神は身に受ける」
……破壊の神、シドー……ならばこの姿が恐ろしければ恐ろしいほど、人という存在は
罪深いのか。
「だけど、ズィータ様……あなたは、何故そんなに詳しいんだ?」
僕はふと疑問に思った。先ほどから王子はマスタードラゴンの教えを信奉する者たちを
まるで他人ごとのように話している。自分もローレシア王家の者であるというのに。
「……………………………………」
王子は無言で僕をぐいと抱き寄せた。
「あ……?」
襟元から差し入れられた指が直に素肌を這う。
「……トンヌラ、そこに寝ろ」
「えっ……」
「今ここで、お前を抱く」
「王子……でも……」
「早く脱げ」
逆らえる調子ではなかった。もし彼を怒らせて乱暴でもされたら、お腹の子がどうなるか
分からない。僕はしかたなく身につけたものを脱いでいった。
関連記事

*    *    *

Information

Date:2009/11/01
Trackback:0
Comment:0
UserTag: * 
Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://draconeamor.blog9.fc2.com/tb.php/10-61130a10
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。