トンヌラ頑張れ。超頑張れ。

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□ 短篇(ロンダルキア編) □

Birth・前編

その日は一日別段変わりごともなく過ぎて行った。酔っぱらったサイクロプス同士がちょっとした
喧嘩から取っ組み合いを始めて湯治場の一部を崩したり、湯当たりしたドラゴンが
道をふさぐように寝そべって見回りの骸骨兵を難儀させたり、そんなことは
特筆すべき事件でもないのである。

今日も地味な執務を終え、ロンダルキアの若き王は詰まらなそうに息をついた。
苛烈な戦いと血の匂いに馴染んだ身体に「平和」と呼ばれるこの時間はいささか退屈に過ぎた。
 しかし彼の妻は現状に満足しているようで最近は子供の頃の様にのんびりとした言動も
また増えて来た。あれは芝居だと本人は主張していたが、やはり芯はああした大らかな性格
なのだろう。
ズィータはトンヌラの笑顔を無意識に思い描いている自分に気付いて、無理にしかめ面を作った。
なんなのだ、あの間抜けな笑い。牝奴隷の分際で、己の身分を弁えているのか。思えばこのところ
少し甘い顔を見せてやり過ぎたかもしれない。今一度肉体に教え込んでやらなければ---
穏やかならぬ決心にひとり頷いて、ズィータはふと足を止めた。
(この匂いは……?)
それは寝室の方角から風に乗って流れてくるように思われる。懐かしく鼻腔をくすぐる、香ばしく
魅惑的な芳香。吸い寄せられるように、知らず知らず歩調が早くなっていく。
「おい、何をやって……」
視界に飛び込んで来たのは抱える程の大皿に山と盛られた---メーダの肢だった。
「おめでとうございます、ズィータ様」
ぱちぱちぱち、と小さな拍手。見ると黒のドレスで美しく着飾った妻が満面の笑みで立っていた。
それも結婚式以来袖を通していない、レースと金剛石をふんだんに使った特別なものだ。
普段つけさせている淫らな装束に比べればはるかに露出は少ないが、何故かその姿に
見とれそうになってしまう。動揺を押し隠すようにひとつ咳をしてズィータはたずねた。
「何がめでたい」
「え、だって。今日はズィータ様のお生まれになった日ですから」
邪気の無い笑顔で応えるトンヌラ。
「そう……だったか?」
とぼけたのではない。半ば本気で忘れていたのだ。
「はい。ですから、がんばってお好きな物を作りました。料理とか下手ですけど」
「覚えてたのか、おまえ」
「ええ。宿屋に泊まるとよくご注文していらしたじゃありませんか」
決して高級料理とはいえない。まるごと揚げたメーダの肢を関節で捥ぎ、ハーブ入りスープと
メーダ自身のミソで和えただけのものだ。
その香ばしい風味が気に入って、旅の途中よく注文してはズィータひとりでたいらげていた。
つまらないことをよく覚えているものだな、と半ば呆れつつもささくれた肉の部分を小さく毟って
つまむ。ニンニクと黒胡椒の風味がよく効いて、悔しいが好みの味付けだ。
「……ふん、悪くない」
思わず漏れたつぶやきに、トンヌラはうれしげに手を合わせる。
「よかった、気に入っていただけて」
「……祝いなど必要ないと言ったろう?」
照れ隠し半分の言葉。生まれた日などになんの意味も興味もない、余計な祝福は無駄だ---
ロンダルキアに居を構えて最初の年、生誕祭の相談を持ちかけた女官に投げかけた言葉を
ズィータは繰り返した。

 彼の誕生は祝福されたものではなかった。極寒の蛮地からやってきた魔女……
王を惑わしたドラゴンの娘の忌まわしき堕とし児。
『王子』として毎年行われる生誕祭はそれなりに豪華なものだったが、そこに主役であるズィータは
存在しないも同じだった。
形ばかりの王位継承者に見え透いた言葉で近付く者達。己の財力を誇示したいが為だけの
貴族達から押し付けられる高価な贈り物。
……心の無い祝福など、嘲弄と同じだ。
だから城の誰にも誕生日がいつなのかは教えなかったし、自分もその事はとうに忘れた
つもりだった。
「でも、これは僕にとっても記念日ですから。ズィータ様がお生まれにならなければ……
 貴男とめぐり逢わなければ、僕もいつわりの人生を歩んでいたことでしょう」
自らの中に眠る女に気づく事なく、いつわりの男子として生き。いつわりの婚礼を挙げ。
迎えた養子をいつわりの子として愛し。
「ズィータ様……お誕生、ありがとうございます」
「言葉が無茶苦茶だ」
いちばん太いメーダの肢にかぶりつきながら、ズィータは苦笑した。
「そうでしょうか。でも、ほかの表現を思いつきません」
天然ぶりを遺憾なく発揮しつつ、きょとんと首を傾げる。
「だから、シドーたちのお誕生日もちゃんとお祝いしてあげたいんです。あの子達が
 僕のところへ来てくれて、僕はもっと強くなれました」
揺りかごの愛児を見守る目は、優しい母親のもので。その横顔に、ズィータは遠い昔の
朧げな記憶を……美しく聡明だったころの母の陰を重ねた。……くそ。何なんだこいつは。
ズィータには未だに理解できない。王族の誇りを剥ぎとり苦痛と恥辱で屈服させた筈の肉奴隷が、
心が壊れたでもなく---何故主に感謝するのか。
そして何故自分は下僕の一顰一笑に心を乱されるのか。
「うん、おいしい。昔はちょっとこのクセのある匂いが苦手だったんですけど、
 赤ちゃんが出来てから平気になったんですよね。不思議だなあ」
細い銀のフォークでメーダの肉を穿り、いかにも美味しそうに頬張る。そう言われれば、子供の頃
苦手だったという肉や香辛料のきいた辛い料理もいつしか主と一緒に賞味するようになっていた。
「ふふ、おっぱいもよく出そうです」
ちろりと舌を出して口のまわりを舐める何気ない仕草がやけに艶っぽい。意識してのことでは
ないだろうが、それがいけないのだ。
いつのまにか空になった取り皿を乱暴に置き、ズィータは妻の肩をつかんだ。
「あ」
少し布地を押し下げると、豊満な乳房は簡単にまろび出る。いつでも主の意に応えられるよう
下着はつけるな、との言いつけを馬鹿正直に守っているようだった。
「舐めて綺麗にしろ」
無作法な手掴みの食事に濡れた手を、鼻先につきつける。
「は、はい」
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Date:2009/11/02
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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