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□ 短篇(ロンダルキア編) □

ジャムと小悪魔とベス饅頭

 …どうしよう。おかーさん、どこいっちゃったのかな。ああ、またおしりぶたれちゃう。

 心細げにひとりごちながら、ロンダルキア城の回廊を一匹の小さな魔物が
さまよっていた。つんと立った二本の角に矢印型をした尻尾、ちっぽけな蝙蝠の羽根。
およそ悪魔族の子供であることは確かだが、その幼さは片時も手放さないお気に入りの
フォークから察せられる。下界の人間たちからはベビーサタンと呼ばれている魔物の
子供だった。今日は母親に連れられ、初めて王城にやってきたのだ。なんでも今は亡き
大叔父は悪魔族のエリートとして城でかなり重要な役職に就いていたらしい。
 そんな事情は露知らず、幼い悪魔は口を尖らせて抗議した。
「つまんないよ、おかあさん。きょうはひとつめピエロのピロロちゃんと
 はぐれメタルがりにいくやくそくだったのにー」
「ワガママ言わないのよ。竜王さまにお会いできるかもしれないんだから」
「やだよう、つまんないー」
「帰りに巨人の温泉街へ寄りましょうね。できたてのベスまんじゅうもあるから」
「やたー!じゃあ、いくー」
 大好きなおやつの名を耳にして、ベビーサタンはころりと態度を変えた。温泉の蒸気で
蒸しあげたスライム型のまんじゅうー正確には蒸しケーキは幼い魔物だけではなく、
大人や旅の人間たちにも広く人気がある。ベビーサタンは、真ん中からふたつに
割ったときにとろりと溢れる鮮やかな赤いソースの部分をことに好いていた。
 これはなんなのかと大人たちに訊いてみたが、誰も答えを知る者はいなかった。
まさか本当にスライムの体液でもあるまい。

 そんな訳で菓子につられてついては来たが、思いの外に城の中は面白い場所だった。
あ、このはしらにほられたかおはおじいちゃんにそっくり。
こっちはおさるのおにいちゃんみたい。
色とりどりのステンドグラスで描かれた、きれいな羽根のある男性の画ー
いや、女性だろうか?
悪魔族の村では見たことのない様々な種族のものたちが、自由に闊歩しているさま。
下界からやってきた人間たちの姿もある。
お城って広いだけで退屈な場所だと思ってたけど、そうじゃないんだ。おもしろい!
 いい子に待っているんですよ、と言いつけられたのも忘れて小悪魔はいつしか
好奇心のままに城の中で迷子になっていた。

「ねーねーおじちゃん、ぼくのおかあさんしらない?」
「さーな。俺ぁ悪魔の女なんかに興味はねぇ」
 暇そうな骸骨兵士はベビーサタンを一瞥したきりで、まともにとりあってはくれない。
だんだんと心細くなって来た小悪魔は半分べそをかきながら幾度めかの同じ曲がり角を
まがった。
おかあさんのいいつけを守らなかったばつだ。ずうっとおうちにかえれなかったら
どうしよう……
 ふと涙に濡れた視線をあげると、窓から見える雪景色のなかでなにかが光った。
白い雪を反射するまばゆい輝きは、石でもなければ松明の炎でもない。
「なんだろ?みにいってみよう」
たちまち子供は心細さも忘れて窓から飛び出していった。雪雲は晴れ、つかの間の
青空がのぞいている。ロンダルキアにとっては素晴らしくいい陽気だ。

 それは城からそう遠くない丘陵のふもとにあった。三角屋根の不思議な家……
規模からいえば、むしろ小屋と呼んだ方がふさわしいかもしれない。その小屋はいったい
何のためにつくられたものなのか、壁も屋根も、細く縦横に走る銀色の柱を除いた
すべてが透き通る石でできていたのだ。急な傾斜の屋根は雪と日差しを反射して
きらきらと眩く輝いている。ベビーサタンは暫し口をあけたままその光景に眺めいった。
「だれのおうちなんだろ……きれえだなー」
透けて見える室内には一面に緑が植えられ、ところどころにぽっつりと赤い点が
見えている。家の中に草を生やすなんてへんだなあ。
「ひゃっ!?」
もっとよく確かめようと近付いていって、小悪魔はあやうく大事なフォークを落としそうに
なった。小屋の中には紫紺の鱗を光らせた巨大な竜が身を横たえていたのだ。
しかし、まばたきをした次の瞬間にその姿は消え失せていた。
「あれえ?おかしいなあ……」
 首を傾げながら小屋に近付くと、屋根の一部に隙間をみつけた。どうやら開閉式になって
室内の温度を調節できるらしい。ベビーサタンは隙間に身体をねじりこみ、強引に中へと
潜り込んでいった。
 小屋の中は意外なほど暖かく、甘いにおいで充満していた。丁寧に積み上げられた
小石には鋸葉をした草が整然と植え付けられている。はじめて見る草だった。
ぷちぷちと種をちりばめた白い実がたわわに実り、そのうちのいくつかは赤く熟している。
甘い匂いのみなもとはそこだった。小悪魔はふらふらとフォークをかまえ、思わず
ルビー色の一粒に狙いを定めたが---
 突然、背後からぐいと首根っこを掴まれた。
「ほう、でかい蜂だな」
「キィッ!?はーなーせー」
黒い瞳に黒い髪をした、若い人間の男だった。人間がこんな場所で何をしているのだろう?
「はなさないとこうだぞ!ベギ……」
「やめてっ!!」
覚えたての呪文を唱えようとした刹那、よく通るソプラノの静止が響いた。空中で足を
ばたつかせるのをやめてそちらを見ると、石垣のむこうから金髪をした人間があわてて
近付いて来る。お城のステンドグラスで見た女神さまによく似た、きれいな人間だった。
人間を見分ける自信はあまりなかったが、たぶん女---娘だ。
「駄目だよズィータ様、おとなげない。こんなちっちゃい魔物に」
静止の言葉は小悪魔ではなく男に対してのものだったらしい。言われてはじめて
ベビーサタンは男の瞳に宿る身も凍るような殺気に気づいた。もっともそれはほんの
一瞬のことだったが。
「ああ、分かった分かった」
うるさげに言い放つと男は小悪魔をぽいと投げ出した。地面に投げ出されそうになる
小さな身体は娘の胸元に受け止められる。軽い身体はぽよん、と強い弾力に押し返された。
(わー、やわらかいなぁ、おかあさんみたい)
小悪魔は柔らかな胸の谷間に顔をうずめ、安心しきったように喉を鳴らす。
「……………………」
「ズィータ様ってば」
「分かってるって」
めっ、と男を睨みつける娘。二人の様子は両親を思い出させた。この人間達も
おとうさんとおかあさんなのかもしれない。
「どうしたの?こんな所で」
優しく頭を撫でながらたずねる娘。その手の温かさに我慢していた涙がきゅうに溢れ出す。
ベビーサタンはわんわん泣きながら迷子になったいきさつをたどたどしく説明した。
「そう、お母さんとはぐれたの。さぞ心配してるだろうね…きっとまだお城で待ってる
 だろうから、探してきてあげる」
娘は小悪魔をやさしく地面に下ろし、その手にしっかりと大事なフォークをにぎらせた。
「ズィータ様、ちょっとこの子を見ててくださいます?」
「は!?お、おい」
「お母さん探して、すぐ戻りますからー」
そのまま後ろも見ずに娘は小屋を出て行ってしまった。男はベビーサタンを見下ろし、
面倒臭げに溜息を吐いてその場にしゃがみこんだ。
「…………………………」
「…………」
長い沈黙。怒っているのだろうか、男は口をへの字に結んだまま小悪魔に見向きもしない。
どうしたらいいんだろう。心細さにまた涙が溢れそうになる。はあ、と、再び大儀な吐息が
聴こえた。男は立ち上がり、畝のあいだに手を入れてしばらく葉の擦れる音をさせていたが--
「ほら」
「え?」
ぶっきらぼうに突き出された掌には、赤い果実が山盛りにされていた。男はみずからも
ひとつを口に入れる。
「食え」
「あ……えっと、いただきます!」
 よそでおやつをいただく時にも忘れずにと言いつけられたことばを律儀に唱え、
赤い実をつまむ。ぷちぷちと小粒の種がはじけ、甘酸っぱい香りが口じゅうに広がる。
あれ、このにおい、僕知ってる。
「おいしいねー。これ、なあに?」
「知らん。あいつの国で作られていた野菜だそうだ」
さっきの白くて黒くて金色の人間か。やさいはきらいだけど、このおいしいやさいは
べつだなあ。
 夢中で甘い実にかぶりついていると、ふっと男の視線を感じた。小悪魔の仕草を
見守るのは先程とは全然違う、優し気な目だった。小さな瞳がきょとんと自分を見て
いるのに気づくと、男は無理に咳払いをして顔を逸らす。
 大きな掌にふた山ほどの果実をたいらげた頃、先程の娘が戻って来た。背後には
恐縮した様子の母親がついて来ていたが、小悪魔を見つけるとその表情は安堵に、
ついで怒りに変わった。
「こら!だからおとなしくしてなさいと言ったでしょ!?」
問答無用のしっぽビンタを一発くらわされ---その後、きつく抱きしめられた。
「もう、心配したんだからね?わるい子だよ!!」
「ごめんなしゃい、ごめんなしゃい」
「お母さん、あんまり叱らないであげてくださいな」
娘は優しく笑って、いいにおいのハンカチで顔を拭いてくれた。あいかわらず男は
仏頂面だったが、もう小悪魔はその表情を恐ろしいとは思わなかった。母親がふたりの
人間に対して何度も頭を下げる光景が不思議だったが、いやな気持ちではないのは
何故だったのだろうか。

 それにしても、ぼくのせいでおかあさんは竜王さまにあえなかったんじゃないのかなあ。
あんなに楽しみにしてたのに、わるいことをしちゃった。

幼い悪魔の子は、王様は玉座から一歩も動かないものと信じていたのだ。


 王様に会えなかったというのに母は何故かご機嫌で、約束どおりベスまんじゅうを
小悪魔に買ってくれた。ほかほかふかしたての生地の中からのぞく赤いソースをまず
先に吸う。お行儀が悪いわよ、とたしなめられながらベビーサタンは気づいた。
あ、これ。このにおい!


それはサマルトリア産のいちごをたっぷり使った、プリザーブドタイプのジャムだった。


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Date:2009/11/09
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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