トンヌラ頑張れ。超頑張れ。

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□ 短篇(ロンダルキア編) □

僕のねがい

「トンヌラ様、お誕生日おめでとうございます!」
「おめでとう兄さま」
「おめでとう」「おめでとう」

 温かな拍手と紙吹雪に迎えられ、サマルトリア王子ははにかみながら席につく。
テーブルには大好きな料理の数々が品良く並べられていた。
卵のココット、ベビーリーフのサラダ、なによりも好きな苺ソースのかかったフロマージュの籠は
手の届くいちばん近くにある。
 子供っぽい好みが恥ずかしくていつもはなかなか食べたいとは言い出せないが、
彼自身が主役になる今日だけは存分に望みを述べられる。
真新しい緑の法衣が嬉しくて、なんだかくすぐったい。
 身体が弱く、宴席には滅多に出て来られない母后の顔色も今日は見違えるように良い。
「あなたの立派な姿を見ていると、病など忘れてしまいますよ」
「おめでとうトンヌラ、わたしたちからの贈り物だ」
父王の手から大きな箱が手渡された。丁寧に包装を解いて行く。蓋をとるとほのかな
光沢を帯びたアップルグリーンの仕立物が姿を現わした。
「わあ、素敵」
妹は手をたたいて歓声をあげる。布地は見た目よりずっと軽く、涼やかな手触りだ。
「『身躱しの服』、軽やかに野を駆けられるよう魔力が込められておる」
「緑はあなたの髪によくうつりますからね」
「ありがとう父様、ありがとう母様!」
今日はなんて幸せな日だろう。みんなの祝福とおいしい料理と。僕はとても幸せな王子だ。
「陛下、失礼致します。ロンダルキアより白き竜が……」
「---竜?」
中庭のほうから兵達のざわめきが伝わってきた。トンヌラは銀の匙を置き、そちらへと向かった。

 広い中庭が些かきゅうくつに見えるほどに雄大な翼をひろげ、白銀の雪を思わせる竜が
大人しく控えている。その背から、竜の鱗と揃えたような真っ白い礼装をまとう
美貌の青年が軽やかな身のこなしで降り立った。砂漠の夜を思わせる漆黒の髪と黒曜石の瞳。
トンヌラの視線を受け止めると、青年は優しく微笑んだ。
(……あっ)
何故なのか。同性であるはずなのに、彼に見つめられると鼓動が早くなる。
青年がしなやかな指をサマルトリア王子へと差し伸べた。
「トンヌラ、迎えに来たよ」
……え?どうしてこの人は、僕の名前を知っているのだろう。
戸惑う身体をふわりとマントが包む。トンヌラは青年の腕に抱きしめられていた。
「愛しているよ、誰よりも。僕の大切な人」
力強い竜の鼓動が、頼りない小鳥のような早鐘と重なる。…そうだ。ズィータ様。僕は
このひとの妻だ。気がつくとトンヌラはいつのまにか純白のドレスを纏っていた。
「その小さな翼で、もうどこへも行かないでくれ」
燃える様に熱い頬を両手に捕らえ、そっと囁かれる。とろけそうな幸福に、はい、と
答えようとした刹那、背中から懐かしい肉親たちの呼ぶ声がした。
「……トンヌラ様?どこへ行かれるのですか?」
「お兄様」
「私の大切な息子よ、行かないでおくれ」
戸惑い、雪深き国の王子を仰ぐトンヌラ。黒い瞳は相変わらず優しく微笑っている。
「……いいんだよ。誰にも君を縛れない。君は望むままの君自身を選びなさい」
振り向けば懐かしい人々の笑顔。平穏な『王子』としての日々。
すべてを許してくれる、愛する男のあたたかな手。この温もりを飛び立つ勇気もない。

自由に。望むままに。皆はそう言う。
けれど---僕はどうすればいいんだろう?王子か、王妃か---
わからない。わからない。どちらに決めることも……

僕の愚かな逡巡はふたつの幸せを逃す。わかっているのに、わからない。
誰か---乱暴にでも、答えを教えて。

「お兄様」
「トンヌラ…」
「ごめんなさい…わからないよおっ!!」

---ぱちん。

「いっっ」
額に走る痛みにトンヌラは目覚めた。頭上にはいつもの不機嫌そうな主の顔。
「五月蝿ぇ」
「ふえっ?あ……」
---夢、だったのか。おそるおそる胸を押さえる。いまいましい膨らみはちゃんとそこにあった。
「良かったぁ……」
「何なんだ、おかしな奴だな」
安堵の息をもらす妻をいぶかしげに見守るズィータ。寝言を喚いたと思ったら自分の乳房を
揉んで笑う姿を見れば、竜王とて心配にならない筈もないが。
「すみませんでした、ちょっと、その、変な夢を見て……」
「もう騒ぐなよ、眠れやしねえ」
ぶつくさと文句をいいながら、荒っぽい仕草で抱き寄せてくる。その様子に何故だか深い
安心をおぼえ、トンヌラはひそかに笑みをこぼした。
……やっぱり、ズィータ様はズィータ様がいいな。


 翌朝枕の下から奇妙な古代文字の書かれた紙片を見つけ、トンヌラは首をかしげた。
「ゾ……マ……望み……なんのことだろう?」
魔法書のような書式にも見えるが……なにぶん古すぎて、意味の通じない単語を
拾うことしかできない。ベッドメイクの際に紛れ込んだのだろうか?
まあいいや、と軽くつぶやき、くずかごに放り込む。

そして今日も愛する主君のため、と身に馴染んだ奴隷の装束をいそいそ着け始めたのだった。



☆inspired 「だって猿だもん!」by Acid - Alkali.


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Date:2009/11/10
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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