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□ 鋼鉄のアレフ □

鋼鉄のアレフ・1

ー闇。この瞳から光を奪われてどれだけの時間が経過したのだろう。尤も、時を測る術を失った
身には既に時など意味のないことではあったが。この地下深い闇の牢獄へと囚われた時、
彼はまだ幼さを十分に残す少年だった。
 勇者ロトの血を引きし三王家のひとり、ローレシアの王子…かつてそう呼ばれていた彼は
今や息づく肉の塊として魔物達の家畜、そして生体実験の材料と化していた。
 まず手始めに四肢をもぎとられた。次いで両の眼球を。そして舌を。皮肉なことに、彼の
強靱な肉体は最後の慈悲たる死神の鎌をも遠ざけてしまったのだ。今にして思えば、
あの時命を落とした月の都の姫君はどれだけ幸せであったのだろう。
 しかし、いつ終わることとも知れぬ地獄の痛苦のなかで、たったひとつ彼の魂を正気に
つなぎ止めるものが在った。
(…すけさん)
出ぬ声で恋人の名をつぶやく。異国の物語の登場人物からつけられたという名。
間抜けな響きだとからかうと、必ず可愛らしく唇を尖らせて抗議した。ときおりーそれが
いったいひと月ごとなのか、一年ごとなのかすら見当もつかないがー彼は恋人の声を
間近に聴いた。
 彼が閉じこめられている牢に、同じく囚われの身となった「彼女」が連れてこられる時が
あるのだ。共に旅していた頃、彼はすけさんの身に隠された秘密を知らずにいた。
あの日ー魔物達に手と脚を切り落とされ、絶望の縁へと堕とされたあの日。
 家畜のように縄につながれ連れてこられたすけさんの、本人ですらその存在を知らなかった
ちいさな女性器。生まれて初めて見たまだ未熟な女の花弁に、哀しくも彼のペニスは
動物的に反応してしまった。行為の意味も分からず、ふたりはそのまま魔物達の手によって
強制的に番わされたのだった。
 娘にも手の届かぬ、小さな、ほんとうに小さな蕾。守ってやらなければならない筈の宝物は
己自身の欲望に破られた。破瓜の痛みに泣き、身悶えるすけさんを指さして笑う魔物どもの
下品な声が今も耳を離れない。魔女の鉤爪に眼球をえぐり出される刹那ーアレフが最後に
見たものは、身を裂く痛みに耐えながら『きみのせいじゃない』と懸命に笑おうとする
すけさんの涙だった。

 それからだ。果てない闇の底に沈んだ彼を、ときおり懐かしいぬくもりが訪れるように
なったのは。その度ごとに声は優しくまるみを帯び、触れる肌は心地よい重さを増していく。
理由はわからないが、魔物たちは自分とすけさんを生かしておくことに決めたらしかった。
盲いた瞳と同じく、未来に光や希望などあり得ないと分かってはいてもー愛するひとが
生きていてくれる、それだけが唯一彼の支えとなっていた。

 それから、またどのくらいの時が経ったのか。ふと彼はいつもより重たい自分の体に
気付いた。…気のせいなのか、うっすらと瞼の上に光が感じられる。これは…いつもの
夢なのだろうか。
「目をおあけ」
 ひどく生臭い吐息と嗄れた女の声が頬を叩く。…何なのだろう?この感覚は。明らかに
なにかが違っていた。
(……………)
命じられるまま、そっと瞼を上げてみる。自分は眼球そのものを奪われたのだ。そこに
あるのはまた闇に決まっている…確信に近い諦めと共に顔をあげるとーーー
「子鹿ちゃん、あたしが見えるかい?」
ひどくつり上がった目、大きく裂けた品のない口。声の主であろう醜い女が彼に口を
つけんばかりの至近距離からのぞき込んでいた。反射的に顔をしかめると女は腐った魚の
息を吐き、ひきつるような笑い声をあげた。
「ヒーッヒッヒッヒッ、見えているようだねえ。幸せ者さ、こんな美女に身体をいじられるなんて」
胸のむかつきをこらえながら瞬きをする。そっと視線を泳がせると、そこは薄暗く不潔な
石の牢獄だった。肌に感じる湿った空気は何年も馴染んだそのままだ。しかし…何故だ?
自分の光は永遠に失われたはずであったのに。
 なおもあたりを見回そうと視線を動かした刹那、脳髄を細い棒でかき回されるような激痛が
襲った。彼の眉間を走る苦悶の皺を目ざとく見つけ、女はにやにやと笑った。
「しばらくは違和感があるだろうがね、我慢してるんだよ。いまに触手がアンタの脳
 いっぱいに根を張る」
(……………!?)
 己の眼から激しくうねうねとした感触が無数に這い出す。悲鳴をあげられるならば、今こそ
彼は生まれ故郷に届いてもいい筈の大声をあげていたに違いない。
 彼のからっぽだった眼堝には「悪魔の目玉」が押し込まれていた。魔物達は窮屈な洞で
触手をいっぱいに延ばし、栄養を求めて柔らかな脳を浸食する。脳に食い込む魔物の触手が
失われた視神経の代わりをしているのだ、と、激しい頭痛の中で彼は気付いた。
「しかしアンタ、よく保つもんだね。今まで実験材料にしてきた人間どもはすぐにおっ死ん
 じまったのに。やっぱり、ロトの血ってやつかい?」
女…人間の姿を下手糞に真似た魔物エンプーサはアレフの頭をぽんぽんと叩く。
それだけで目も眩むような頭痛が脳髄をかき回した。
「となると、コッチの方も期待できそうだねえ」
失われた二の腕のあたりを女がまさぐってくる。感覚は無いが、金属のきしむ音と
僅かな振動が伝わってきた。
なんだ…これは?
ちょうど、長く無理な姿勢をとったあとのようにー痺れ、感覚を失った脚を引きずって
立ち上がるときのように、ただ重たいかたまりが身体の末端を占める。
「よく似合うよ、見てごらん」
エンプーサはアレフの鼻先に曇った鏡をつきつけた。まだ慣れぬ、ノイズだらけの視界に
ぼんやりと映る己の姿。…それを眼にするのは何年ぶりなのだろう。少年だった筈の自分は
鏡の中でもはや大人の男へと成長を遂げていた。魔物の支配する地上で、すでに
この世にはいないと聞かされた父王によく似ている。
 そしてーーー彼ははじめ、自分の腕に手甲がつけられているのだと思った。大人の剣士が
使うような、肘までを覆う連結された鉄の防具。だが、そうではなかった。それは彼の肉から
直接生えていたのだ。肩と、腿の付け根から不格好に突き出した鉄の塊。
 キラーマシンと呼ばれる魔物の手脚だった。
(…………!!!)
 これは幻だ。魔物の瞳が見せる悪夢だ。アレフを嘲笑うようにエンプーサは彼を戒めていた
鎖を解く。そのまま床に落ちる筈の四肢なき身体は鉄の代替物にぎこちなく支えられ
かろうじてではあるが平衡を保っていた。
髄を介して繋がったキラーマシンの脚は、感覚こそ無いが失われた本人の機能を受け継ぐ
可能性を充分に秘めていた。その外観を除けばの話だが。醜い魔女は己の手になる
玩具の出来に上機嫌な笑みを漏らした。
「そらそら、あんよは上手」
小馬鹿にしたような言葉を吐きながら、初めて歩いた幼児を導くように手を叩く。
よろけながら一歩踏み出すたび、骨をかきむしるような不快感と金属の痺れが躯を走った。
だが、歩ける。土を踏みしめる足裏の感触こそ無かったが、己の力で立って歩ける。
「ぐっ…」
そこまでが気力の限界だった。二三歩踏み出したところでアレフはバランスを崩し
冷たい石床に倒れこんだ。
完成したばかりの新しい玩具を壊すまいと、魔女の骨ばった腕がその身体を抱きとめる。
「いいね!アンタは最高の玩具だよ!役立つのはコレだけじゃなかったんだねェ」
下腹を這いまわるおぞましい指の感触にアレフは顔をしかめた。淫らがましい魔女の戯れに
幾度意に染まぬ交わりを強いられたことか。自分たちの手で奪った光と手足を再び与えたのも
単なる悪趣味な戯れにすぎなかった。たとえ魔物の部品が受け入れられずに腐り落ちたと
しても、彼らにとって一時の座興となればそれで良い。

 …だが。堕とされし勇者の末裔にとっては違った。今一度剣を振るう腕を、大地を駆ける脚を
手に入れたのだ。たとえそれが忌むべき魔物から奪われたものだったとしても。

「ひょっとしたら元通り動かせるようになるかもしれないねぇ…いや、面白い。正直ここまで
 保ったのはアンタが初めてさ。もっとアタシ達を楽しませておくれよ」
だらしなく笑う魔女に、アレフもまたひそやかに凄惨な笑みを返す。
ああ。そうしてみせるとも。お前達の馬鹿馬鹿しい好奇心を後悔させてやる。必ずだ。


 その夜、闇に包まれた牢獄で囚われの勇者は数年ぶりの深い眠りを貪った。


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Date:2009/11/14
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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