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□ 鋼鉄のアレフ □

鋼鉄のアレフ・3

 何事かあったのだろうか、一帯が妙に騒がしい。しかし厨房では常と変わらず料理番を務める
魔物たちが忙しく働いていた。なにしろ今日は久しぶりに極上の食材が手に入ったのだ。
およそ一年たらずの間隔でもたらされる美味。柔らかく、甘く、汁気たっぷりの肉の味を
思い出すだけで涎がこぼれるようだ。もっともその殆どはぶよぶよ太った上役の悪魔どもに
さらわれ、こっそりつまみ食いのできる料理番をのぞけば下級の魔物などは細い骨を
しゃぶらせてもらうことすら稀なのだが。
 突然激しく皿の割れる音が響いた。何事かと料理番のホークマンが振り向くと、下働きのどじな
悪魔が抱えた皿を足下にぶちまけた音だった。忌々し気に舌打ちし、へたりこんだままの
小悪魔をどやしつけようとして戸口に落ちる大きな影に気付く。マントをまとった長身の影-
その輪郭は人間のもののようだが、両の瞳は禍々しい紅玉の光を放っていた。背筋の毛が
逆立つ様な鬼迫にホークマンはたじろぎ、壁に立てかけた得物に手をのばしかける。
鋼鉄の脚が床を蹴った。一跳びで小悪魔の頭蓋骨を踏み砕き、ホークマンは冷たい金属の腕に
首を締め上げられていた。
「キィィッ……!!キサマ……ッ!?」
関節の隙間から細い触手が無数に伸び、魔物のこめかみに突き刺さる。脈動とともに、"声"が
直接脳内に響いた。
"赤ん坊はどこだ"
「あ……赤ん坊?ああ、お前も食いてぇのか?」
"なん……だと……!?"
鉄の爪がきつく喉元に食い込む。ホークマンは呻き、血痰を吐いた。アレフの腕の中で
すけさんが必死に首を振る。
"---答えろ、どこにやった!!"
「キキッ……慌てるなって、もうじき焼き上がるぜ」
"!?"
アレフは弾かれた様に顔を上げた。肉の焼けるむかつくような臭いが巨大な石窯から
漂って来る。鋼鉄の腕力で魔物を壁に叩き付けると、アレフは竃に駆け寄った。
蓋を開くと灼熱の蒸気が顔に吹き付けた。
 炎の中にちいさく丸い影が見える。躊躇することなく、アレフは腕を竃に突っ込んだ。
"ぁ……あ……"
震える気配に、床に寝かされたすけさんが蒼白な顔で振り仰ぐ。
"見ちゃだめだ!!!"
---だが、遅かった。見開いた目に『それ』を焼き付けたまま、すけさんは息をつまらせる。

真っ赤に灼けた鉄の腕が竃から引き出したものは、眠ったかたちのまま焼きあげられた
赤子の肉だった。
 まだくすぶり煙をあげ続ける肉の塊は、もはや男女の区別も判らない。
「ア……ゥア……ァアア………………」
凍えた喉からは嗚咽も、叫びすらも枯れていた。
 牢獄を震わせ、大挙して押し掛ける魔物達の気配が近付いて来る。だんだんと冷えて行く
我が子を抱いたまま、アレフはゆっくりと振り向いた。
「派手にやらかしてくれたねェ……ちょっとはしゃぎすぎだよ、坊や」
数知れない魔物を引き連れてエンプーサが歩み寄る。
「悪い子だよ---さ、そんなお悪戯が出来ない様に玩具は没収だ。繁殖の部分だけ残して
 脳を切り取ってやろうね」
魔女は長い爪を生やした手でアレフを差し招く。仲魔から犠牲を出してもなお、ロトの血を引く
赤子という美味には価値があったのだ。じりじりと魔物達の輪が獲物に近付いて行く。
 鋼鉄の手脚をもってしても、ひとりでそこを突破するのは不可能だった。
-まして、達磨となった仲間を連れては。
"すけさん……ごめん……ごめんよ。オレ……"
すけさんは魔物の瞳を持つ恋人を見上げた。その眼は静かに澄んでいる。
"アレフ……"
優しく、そして哀しい笑顔で首を振るすけさん。唇が声なき言葉をつむいだ。アイシテル、と。
 細く小さなハミングがすけさんの喉を漏れ出す。一瞬呆気にとられた魔女はにやついて
金髪の肉枕をながめた。
「鳥になったかね、可愛い花嫁ごは」
壊れた、と思ったのだ。その"歌"の意味に気付いたのはアレフだけだった。
"すけさん---!?"
微笑むすけさんの頬に一筋の涙が伝う。

もっと早くこうすればよかったのかな。でも…………ごめんね。
ボクは、アレフの赤ちゃんが産めて、しあわせでした。
ゆるして、アレフ。そして…………できれば……生きて。

詠唱は言葉なくしてもゆるやかに呪文をかたちづくる。次いで、魔女の顔色が変わった。
「---おやめ!!!その呪文は---」
"だめだ、すけさん!!"
アレフがすけさんの身体に覆い被さる刹那、"歌"は最後の一節を終えた。


"メガンテ"


次の瞬間、魔獣の獄は白熱の閃光で満たされた。



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Date:2009/11/18
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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