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□ 鋼鉄のアレフ □

鋼鉄のアレフ・4   

 邪神が解き放たれ、抗うものの居なくなった世界。 魔物達の営みも蓋を開けてみれば
人間のそれと大差はない。獣と変わらない低級な魔獣をのぞけば、人間の築いた街にそのまま
居座った半獣や亜人のたぐいはそっくり人間を真似たような暮らしを営んでいた。
ーただ、露店に並ぶものは変わったが。

 かつてリリザと呼ばれていた街。武器や果物に混じり、大皿に山と盛られているのは切り取られた人間の女の乳房だ。あちらの屋台では茶色い毛皮の狒狒がとぐろを巻いた腸をはさみで
切りながら口上を述べている。かと思えば、首輪と枷をはめられた生きている娘を並べて売る
店もありーー
 行き交う魔物の雑兵どもに混じり、ひとつだけ整った長身の影がゆっくりと歩を進めていた。
「なんだぁ?人間臭ぇぞ?」
子供の眼球をくちゃくちゃと噛みながら、リザードマンが聞こえよがしに喚く。
「まさか、聖霊の森の死に損ないが俺らの市へ出張ってきてんじゃねぇだろうなァ」
「………」
「おい!なんとか言えよォ!!」
僅かに身じろぎする男が目深に被るフードを、リザードマンはやにわにまくりあげた。
 現れたのは人間の男…いや、そう見えたのは一瞬だった。人間の基準でいえば整っている
部類であろう風貌は、野をさすらう飢えた狼のようにひどく荒んでいる。まがまがしく血の色に
光る両の瞳。そして、肩から生えた不格好な鋼鉄の腕。
「俺ノペットガドウカシタカ」
猫科の魔獣族のように喉の筋肉を震わせ、地に響くような声でアレフは答えた。只ならぬ気迫に
押されて後ずさったリザードマンが見ると、マントの陰に柔らかそうな白い塊があった。それは
滑らかな肌の、人間の雌の顔を持っていた。
「あ…あぁ、すまねぇ、ちょっとした思い違いだ。それにしても、具合の良さそうなモノを
 飼ってるじゃねぇか…人間の便所ってのは、そんなにいいのかい?」
おもねるような言葉を無視し、アレフは魔物の胸元を掴む。
「聖霊ノ森ッテノハ、ドコダ」
「…あ?人間狩りにでも行く気か?…首尾よくいったらおこぼれくれぇ恵んでくれよ」
鉤爪の指す方角に一瞥をくれると、どさりと魔物の身体を投げ出す。リザードマンは
よろつきながら、去っていく後ろ姿に唾を吐いた。
ーけっ。結界の餌食になっちまえ。

 呪文に砕け散ったのは、アレフの贈った『命の指輪』だった。壊滅した牢獄から逃げ延びた
ふたりは、勇者なき世界の荒廃に直面した。囚われていた6年の間に人々は抗うことを諦め
絶望の中で魔物たちに隷属して生きるようになっていた。かつて人類がある種の獣にたいして
行ってきたように。
 アレフの持つ魔物の肉体…そして四肢のないすけさんの存在は、皮肉にも彼らの中を歩く
格好の隠れ蓑となった。やがて彼らの耳に人間の生き残りが集って暮らす場所の噂が
入ってきた。ロトの血を引く聖女に率いられ、最後まで魔物に与することを拒むものたちーー
 それは深い森に抱かれた湖の都…かつて滅びたムーンブルクの城跡にあった。最後の聖域を
護るように生い茂る暗い森を抜けるとにわかに視界が拓け、蔦の絡む城壁があらわれた。
ロトの血を引く三人が集い無邪気に隠れ鬼をしたのは十年も昔のことではないのに、崩れた
石積みは遙か昔に滅び去った文明の遺跡さながらの佇まいを見せていた。
 城内はしんと静まり返って何の物音もしない。アレフは躊躇なく聖なる領域に足を踏み入れた。
「……クッ」
ほの青い魔力の輝きが足元からまとわりつき、アレフの表情が僅かに歪んだ。
「とまりなさい、魔物よ!ここは人間の領分、お前の来る場所ではありません」
凛とし声が響く。かがやく金髪を結い上げ、男のような鎧姿の美しい少女が城壁から
見下ろしていた。
「…ル・ルゥ!?生キテイテクレタノカ!?」
アレフの喉から漏れる声を聴きとめて、少女の容に動揺の色が差す。
「おまえ…なぜ、わたしの真名を知っている!?」
アレフはフードを脱ぎ、少女に顔がよく見えるよう仰向いた。
「アレフにいさま…!?」
歓喜と驚愕、どちらともとれない声をあげて少女は壁の向こうへ姿を消す。ほどなくして
正門から急ぐ足音が近づいてきた。
「ああ、アレフにいさま…!本当にあなたなのね!」
駆け寄る少女に、アレフは数年ぶりとなる心からの笑顔を浮かべて見せた。
「わたし…信じていました、きっとお戻りになられるって…」
「相変ワラズ泣キ虫ダナ、ル・ルゥハ」
ル・ルゥ。アレフを実の兄のように慕っていたほんの幼いサマルトリアの姫君は、今や
涼やかな瞳の貴婦人へと成長を遂げていた。
「すけさん兄様は、また道に迷ってでもいるのかしら?にいさまにご迷惑をお掛けして、
 ほんとうに駄目なひと」
兄の生存を疑ってもいない様子で視線を泳がせる。
「……………」
「……え…?アレフさま…どうなさったの?兄様も一緒なのでしょう?」
アレフの逡巡に少女は言葉をつまらせた。
「まさか、そんな…そんなはずないでしょう!?」
「ル・ルゥーーー」
ーその時、アレフの懐からか細いハミングが漏れ出した。聴き間違えようもない、兄がいつも
 歌ってくれたお気に入りのメロディ。アレフは覚悟を決めたように長く息を吐くと、変わり果てた
身体をマントで包むようにしながらそっとすけさんの顔を覗かせた。
「兄…様………」
…抱えるほどしかない身体。マントを退けなくともその下に何が在るのかー或いは無いのかーは
容易に察せられる。ロトの聖女と変わり果てた僧侶戦士は、互いに哀しい笑顔を見合わせた
まま嗚咽した。

 砦ーとは名ばかりの荒れ果てた城。生き残っていたのはほとんどが老人と年端も行かない
子供、少数の母親ばかりだった。魔物を寄せ付けぬ結界と清い泉の水に護られ、彼らはただ
細々と命を長らえていた。聖女ル・ルゥの伝える神の言葉だけを頼りに。

 アレフの口から全てを聞かされ、雄々しきロトの聖女は幼子のように一晩泣き明かした。
棒のようになった兄の手足に薬油を塗り、貴重な清水で洗い、清潔なきものを着せた。
しかし、やはり失った部位はもとにもどることはなかった。
「わたしは聖女などではありませんね…奇跡のひとつもおこせない」
やはり魔物に囚われ、昼夜分かたぬ陵辱に命を絶とうと決意した日…ル・ルゥは神の声を
聴いたのだ。ふたたび束ねられしロトの血族より、救世の御子が生まれるーーーと。
絶望の中、その言葉だけを信じてル・ルゥは今日まで生き続けて来た。必ず兄達は
生きて戻って来ると。

「わたしたち三人がロトの最後の血………アレフにいさま、どうか、御願いがあります」
決意に満ちた視線をあげ、聖女はつづけた。

「……どうか、兄様と…いま一度だけ、御子をもうけられますように」


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Date:2009/11/20
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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