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□ 鋼鉄のアレフ □

鋼鉄のアレフ・5  

 麗しき水と緑の都、ムーンブルク。荒れ果て、崩れかけた城跡に栄光の魔法王国と呼ばれた
かつての面影はない。炎に灼かれ、古代の遺跡のようにひび割れた神鳥の紋を見上げながら
アレフはきつく唇を噛んだ。先刻の聖女の言葉が千斤の箍となって胸を締め付ける。

ー私に御子を育むちからは無いから。
ル・ルゥの白い腹……くつろげた衣の下、柔らかな下腹から鳩尾には深々と歪な傷跡が縦に
走っていた。
『神の声だ?おもしれぇ、奇跡を見せてくれよーーー子壺を失ってもガキをはらむ奇跡をな!』
ル・ルゥを犯した魔物の槍は、そのまま内から子宮と筋肉を割り裂いた。

 兄様の御身体はきっと主、マスタードラゴンのご意志が遣わせたもの…どうか人々を、世界を
救う剣をお授けください。聖女の紡ぐ言葉に迷いはなかった。
(主……なにが神の言葉だ……!!)
 この上すけさんに苦しみを味あわせ、世界などという重荷を負った子を送り出せというのか。
アレフはそのような願いを眉ひとつ動かさず口にするル・ルゥをーーーそうさせる神を呪った。
「アレフさま」
近づいてくる幼い声。子供を怯えさせないよう、瞼を閉じて振り向く。顔見知りになった
少年であることは足音だけで判っていた。
「目がみえないのに、おひとりで歩いてはあぶないです」
"優しいな。大丈夫だよ、慣れてるから"
アレフは少年の髪をそっと撫でる。指を通る髪の感触など、もうとうに忘れてしまった。
少年はこわごわと、しかし嬉しげに鉄の腕に触れる。
「かっこいいな…アレフさまのうでは、神様がおさずけになったんでしょう?聖女さまが
 いっていました」
"神様か……"
アレフはこの忌々しい鋼鉄の塊を授けた醜悪な魔女の容貌を思い浮かべ、苦笑した。
「すけさん様にももどりますよね?聖女さまみたいな、きれいな手と足が」
"…………"
「僕のお母さんも、聖女さまやすけさんさまのようにやさしい目をしていました。毎晩ねる前に
 うたを歌ってくれて……日曜日にはおかしを焼いてくれました…おかあさんは…おか…」
少年は言葉を詰まらせ、拳で何度も涙をぬぐう。
「ごめ……なさ……おかさんが…男の子は…ないちゃだめって……ゆったのに……」
かけるべき言葉を見つけられないまま、アレフは少年の頭を抱きしめた。この子の家族もまた
魔物によって虐殺されていた。少年を逃がすため最後まで囮となった彼の両親は生きたまま
皮を剥がれ、街頭に晒されたという。
「アレフさま……おねがいです!御子さまといっしよに……魔物をやっつけてください!!
 おかあさんとおとうさんとーーおなかのなかのおとうとのかたきをとってください!!」
胸を濡らす幼い慟哭。アレフはただ、壁の上にひび割れた微笑を浮かべる聖母の絵姿を
見つめることしかできずにいた。

 その日の真夜中。魔物の爪を逃れかろうじて元の姿を保つ城の一室…すけさんが不自由な
肉体を横たえている部屋を、アレフはひっそりと訪れた。ル・ルゥの献身的な看護により、
すけさんの身体はすっかり元のーーーとまではいかないが病的な青白さもとれ、手足が
無いことを除けば外見的には健康を取り戻したように見える。微かな物音にすけさんは
首をもたげた。
"アレフ"
アレフはすけさんの額にそっと手を触れた。以前のように手荒な手段を使わずとも、二人は
軽く触れ合うことで意志を交わせるようになっていた。
"…ごめん、起こした?"
"ううん。どうしたの"
"すけさん。ここを出よう"
"え……?"
サマルトリアの王子は訝しげに恋人を見上げた。暗がりにその表情はしかと見極められない。
"もういいよ…神様とか……勇者とか……もうたくさんだ。そんなもの、最初から
 どこにもいなかった。わかるだろ"
"……アレフ"
抱き寄せる腕は、相変わらず冷たかった。
"もう……きみに、あんな悲しいこと…思い出してほしくないから……どこか、魔物も人も
 寄りつかない森の奥ででも、ふたりで暮らそう。今度こそーーー
 すべてをかけてきみを守るから"
 窓辺の小瓶が月光を映して白く光っている。ひとかけらしか持ち出すことのできなかった
赤子の骨。
"さあ"
マントを広げ、包み込もうとするアレフにすけさんはゆっくりと首を振った。
"……ごめんなさい"
"すけさん……!?"
いけないよ、と唇が動いた。
"どうして…!?オレたちはもう充分がんばったじゃないか!祈ることしかできない人達や
 居もしない神様のために、運命まで犠牲にしなくちゃいけないなんて嫌だ!!オレは、ただ…
 いちばん側にいる大切な人を守るために生きたい!"
無理にでも抱えようとする恋人に、すけさんは手足を失って初めて抵うそぶりを見せた。
"ごめんなさい。でも、ボク……アレフがボクのために血を流すのは見たくないんだ。
 できるなら平和な世界で笑いあってくらしたい……"
"………………"
"だれかひとりを守りたいなら、結局世界を守らなければいけないんだと思う……
 そして、ボクたちにしかそれができないなら………役割を果たすべきだよ"
違う、と言えずにアレフはただ苦しげにかぶりを振る。それならばいっそ何の力もない
恋人同士として、抱き合ったまま命を落とした方が良かった---と。
"それにね……ボクなら大丈夫。はじめてじゃないから……"
かすかに唇を震わせ、すけさんはかろうじて笑ってみせる。
"あなたと逢うたび…ボクは身籠って…あなたと逢うたび、赤ちゃんを産んだんだよ……"
"………………………………………………!?"
その時、ようやくアレフは悟った。ロトの血を引く雄と雌が殺されもせず飼われていた理由を。
一年足らずの間隔で交配させられていた理由を。
"……あの子には……三人のお兄ちゃんと…ふたりのお姉ちゃんがいるから……
 さびしがらずにいてくれると思うんだ"
---なんと自分は愚かだったのだろう。生かされていることに疑問を感じながら、理由を
知ろうともせず……大切な人を何度も何度も悲しませた。
"すけさん……………………!!!"
ごめん。ごめん。ごめん。何度繰り返しても足りない。抱きしめてくる冷たい鋼鉄の腕に
頬を寄せて、すけさんは恋人の耳に囁いた。
"……その子が望むなら、救世主なんかにはさせない……ふつうに育てるよ……
 だから、ね……もういちどだけ……ボクに、幸せな母親の夢を見させて…………"

哀しい吐息を奪いあうように、ふたりは深い口付けを交わした。




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Date:2009/11/21
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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