トンヌラ頑張れ。超頑張れ。

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□ diva affonda □

Diva affonda・序章

 埃っぽい南国の空気に、鮮烈な血の臭いがにわかに混ざる。闘技場の控え室へ、慌ただしく
男の身体が運び込まれて来た。凄惨きわまるその姿に居並ぶ人々は一斉に腰を浮かせた。
 にわかに施術師が立ち働き、担架の上で激しい痙攣を続ける男にかわるがわる治癒魔法を
かける。皮膚を凶暴な牙に引き剥がされた顔面は葡萄酒に浸した綿布を貼付けたように崩れ
はぜた肉の上で眼球が今にもこぼれ落ちそうに震えていた。男は雪の台地に棲む単眼の
巨人もかくやと思わせる巨躯の持ち主だったが、それでも5分とは保たなかった。
(かくも手応えがないとは。西国一の拳闘士が聞いて呆れる)
 宰相は機嫌を伺うように王の横顔を盗み見た。仮面に隠れたその表情はしかと分からないが、
肘掛けの上で手入れされた爪が苛立たしげなリズムを刻んでいる。またしばらく不機嫌が
続くのか、と思うと気が気ではなかった。いつ同僚や自分が魔物の檻に放り込まれるか分かった
ものではない。やむを得まい、また何時ものように奴隷の五、六人も喰わせるか。ひとりくらいは
目新しい歯向かいかたをするかもしれない。そう決めたとき、ふっと場内の喧噪が止んだ。
 人々の視線の先を見ると、闘技場の入り口に細身の影がふたつ立っていた。
ぴたりと身に付いた黒い衣に毛皮の外套。異国の傭兵風の軽装だ。頭から巻き付けた布の
間に、鋭い目だけが覗いていた。瀕死の巨漢に目もくれず長身の男は人々の間を抜ける。
影のように寄り添うもうひとりの人物はいくぶん小柄で、女のような美貌の少年だった。
目立たない苔色の法衣をちぢこめるように男の後を追う。
「おい、今の男が最後ではなかったのか」
戸惑いながら宰相は小声で伝令に耳打ちする。
「それが……つい先刻あの二人がやって来て……」
---飛び入りだというのか。旅の者のようだが、愚かな命知らずだ。せいぜい面白い見世物に
なってくれよ、と宰相は心のうちで願った。
 王に代わり、慣例となった口上を声高に述べる。
「はるばるデルコンダルの城によくぞ来た!こちらに御座す方が王、
 ヴェスティア陛下である。陛下を楽しませる戦いを見せたならば、其方達に褒美を
 とらせよう」
着飾った女奴隷が慎重な手付きで布に包まれた宝玉をかかげる。月光を現わす見事な彫刻の
なされた石盤が黄金の輝きを放つ。王族に伝わる至宝、"月の紋章"だった。
 男はさしたる興味も無さげに首を傾げると、背に負った大剣を引き抜いた。数百年の
寿命をもつ古木が延ばす根のような、見るだに禍々しい装飾が刃にまで施されている。
「さっさと始めようぜ」
不敵に言い放つ男を、少年は祈るような目で見つめた。高らかに銅鑼の音が響き渡ると
男の背後で慌ただしく扉が閉じられた。反対側に見える闇の中で、ふたつの紅い光が点る。
地に響くような唸り声とともに、深紅の毛皮の魔獣が姿を現した。殺戮の剣歯虎----
キラータイガー。その毛皮には乾いた犠牲者の血糊がまだらにこびり付き、虎とも豹とも
知れぬ異様な文様を描いていた。相対する男は今日の犠牲者たちの中で一番の細身だった。
残虐な見世物に慣れ切っていた観客も、あまりに勝ち目のない戦いに辟易したような視線を送る。
 しかし---ひと咬みで犠牲者を屠ると思われていた魔獣の顎は、一向に開かれなかった。
勝ち目のない相手を前にした犬のように尾を垂れ、どこか虚勢にも聞こえる唸りを発する
ばかりで飛びかかる姿勢を見せない。
(---どうしたというのだ)
確かに今日は幾人もの挑戦者を血に染めてきたが、キラータイガーにとっては狩りの前の
ひと運動にも足らぬほどだ。そして-明らかに-魔獣は、とるに足らぬ人間の男に怯えていた。
これでは主の腹が納まらぬ。痺れをきらした宰相は、王の傍らに佇む青い肌の少女に命じた。
「歌え!」
少女はびくりと身体を震わせ、判断を仰ぐように王を見やった。仮面の王は鷹揚に頷く。
「…………………………」
刹那、青い肌の少女は許しを乞うように瞼を伏せたが---薄い唇を開き、奇妙な旋律を奏で
だした。
"ゴオオオォォッ"
突如、魔獣は狂った様な雄叫びをあげた。瞳孔の判断も分たぬ程に赤く染まる瞳からは涙の
ように血が噴き出す。地響きを立て、巨体は男に突進した。地を蹴り、男の身体が空を舞う。
おお……、と観客の間からはじめてどよめきが上がった。紙一重で狂獣の牙を避けた男は
禍々しい剣で空を薙ぐ。蒼い閃光が走った。魔獣の毛が逆立ち、火花が散る。
"フギィッ"
猫のような間抜けた悲鳴があがった。
「どうした化け物!陛下に恥をかかせるつもりか!!」
苛立つ声にせかされるように、少女の歌がピッチをあげる。キラータイガーはなおも鬣を
ふりたて、牙を剥いて飛び掛かる。飛び退る男の頭巾が解け、精悍な顔立ちが露になった。
 デルコンダルの強い日差しのなかで鴉羽の髪が躍る。---男は不敵な笑みを浮かべていた。
いつしか王の視線が男の動きを追っていることに気付き、宰相は内心驚いた。この移り気で
冷酷な王が、このような素振りを。何度も崩れかかり、そのたび歌声に引き起こされるよう
魔獣はよろよろと立ち上がった。
「しつけえな……」
ち、と小さく舌打ちした男は観客席の少年へ視線を投げた。少年は何かを察したように
幾度も首を振る。
「もういい、面倒臭ぇ」
誰に聞かせるでもなく呟くと、男は剣を振りかぶった。再びその身体が魔獣の頭上高く
跳躍する。陽炎の中に、一瞬紫紺の竜の影が見えたのは幻か。
「ダメーーーーーー!」
少年の叫びと共に、男の剣はキラータイガーの頭蓋を真二つに断ち割っていた。

「…見事であった!陛下からの褒美をとらせる」
血に塗れ、絶命した魔獣の身体を奴隷達は十人がかりで運び去る。宰相は必死に平静を
装いながら男を観客の前へ導いた。一から育て上げた魔獣を屠られた主君の憤りも勿論の事、
それを易々と葬り去った男に動物的な恐怖を感じていたのだ。この男は一体何者なのか。
 訴えるような少年の目。男は宝玉を手に取ると観客の前で高く掲げ---次の瞬間、足元に
叩き付けた。至宝は呆気なく砕け、南国の空気の中で星屑ときらめいて散った。
「なッ………………」
「帰るぞ」
言葉を無くす観衆の前で、少年が呪文を唱える。最初に我に返ったのは宰相だった。
「なんということを……!!!だ、誰か!この者を囚えよ!」
戸惑いの色を隠せないまま衛兵が駆け寄る。
"ルーラ"
だが、彼らの手が衣に触れた刹那---二人の姿はその場から掻き消えた。
足元に光る砂粒と化した紋章の砕片を未練がましく握りしめ、宰相は頬を震わせる。
「おお……信じられぬ……よくも……」
 その時、宰相の耳に低い笑い声が聞こえて来た。蒼い肌の少女が不安げにそちらを窺う。
声の主は王だった。かつてない程上機嫌に…愉し気に、仮面の王は笑っていた。男にしては
不相応なほど艶やかな唇を舐め、誰にも聞こえぬほどの声で呟きを漏らす。

……アメティスタの竜。素晴らしい獲物だ。必ずや我が手中に。

デルコンダル王、ヴェスティアは竜の消えた何処とも知れぬ空を見つめながら
いつまでも笑い続けていた。






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Date:2009/11/26
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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