トンヌラ頑張れ。超頑張れ。

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Diva affonda・1

 雪国に相応しい普段の服装に戻ったズィータはトンヌラの訴える様な視線から
目をそらし、暖炉の縁を舐める炎の舌をじっと眺めるふりを続けていた。
「……殺さないでって…お願いしたじゃないですか……」
「……………………」
予測していたのと一言一句違わぬ妻の言葉に、ズィータは苦虫を噛み潰したような表情に
なる。
「ひどいです……あの子は…戦いたくないって、言ってたのに……」
「……どうしろってんだよ!」
卓を叩き、痺れを切らしたように叫ぶズィータ。
「あんなデカブツ、どうやって運び出せっつうんだ!?弱らせても弱らせても、
 おかしな呪歌で起き上がっちまうし---」
「でも!ほかにやりようはなかったんですか?」
剣歯虎の生息域は世界でもごく限られ、近年では個体数も激減している。多くはその
見事な牙を狙うハンターの餌食になったものだった。そもそも名前とは裏腹に、
キラータイガーが人を襲うことは滅多にない。デルコンダル城に飼われていた個体は
明らかに異質だった。不自然なまでに盛り上がった筋肉、充血した目---何らかの薬物投与、
或は魔法による肉体改造を日頃から受けていたのだろう。
「ああなっちまったら、城に連れて来たところで長くはねえよ」
「でも……」
それならなおのこと、短い時間を安らかに過ごさせてやることはできなかったものか。
トンヌラは魔獣の頬に垂れていた、涙のような血の雫を思い出していた。苛立ち紛れに
主は声を荒げる。
「だいたいなぁ…あんな事したって、イカれたデルコンダルの奴らは止めやしねえ。
 新しい賞品と魔獣を用意するだけさ。今度は両方とも、もう少し丈夫なのを---な」
「…………………………」
ただの自己満足。恐らく主の言う通りなのだろう。だが、トンヌラは信じたかったのだ。
人と魔獣の戦い……一方的な殺戮の舞台を見世物にすることがいかに愚かしいか、
王が自ら気付き悔い改めてくれると。
「差し出がましい口を効いて……すみませんでした」
黒衣の后はふっと息を吐いて席を立つ。
「おい、どこへ行く」
「…すこし、外の空気を吸って…湯をつかってまいります」
ズィータは憮然とした表情で、妻の後ろ姿を見送った。

 自分の考えはセンチメンタルな夢物語にすぎないのか。温室のような平和な国で、
甘い夢だけを見ながら育って来た王子様。ロンダルキアの者には、きっと理解しては
もらえないのだろう。トンヌラははるか下界、懐かしいサマルトリアの方角を見やり
小さく首を振った。

 広大な面積を持つ城の敷地、その一角に湯治場が設けられたのはごく近年の
ことだった。ロンダルキアの者だけでなく下界からやって来る商人や城下の人間、
魔物にも広く解放されて人気は上々だ。質素な男のなりでそこに混ざれば王妃と
気付かれることもなく、ざっくばらんな下々の話を窺うこともできる。彼らとともに
そこで湯をつかうようなことは無論なかったが、他愛もない世間話に耳を傾けている
だけでだいぶ気晴らしになった。
 休憩所には、まだまだ早い時間だというのに大勢の湯治客たちが屯していた。
トンヌラは目立たぬよう潜り込み、隅の椅子に腰掛けてさり気なく彼らの会話に
耳を傾けた。
「……デルコンダルの武闘大会に…とんでもない奴が現れたって話だな……」
「ああ……簡単にキラータイガーを倒して……褒美の宝を壊したってな……
 王もコレなら、参加するような奴もコレもんだな」
噂する男が頭上で独特のゼスチュアをしてみせる。トンヌラはいささか困惑ぎみの表情で
彼らの会話に聞き入っていた。
 その時、ふっと喧噪の中にひとりの男の姿が目に入った。
褐色の肌と、ラフに束ねられたエクルベージュの髪。やかましい男達の中で、彼は
ひとり優雅な静寂をまといながら本を読んでいた。草色の装丁に金文字---トンヌラは
それによく見覚えがあった。サマルトリアの作家による連作の創作童話だ。
視線に気付いたのか、男がふっと顔をあげた。トンヌラと視線が合うと、彼は親し気に
微笑んでみせた。人なつこく優し気な笑み。それは長く目にしたことのないものだった。
主も、バズズやアトラスら臣下も見せたことのない友達のような視線。
 ズィータとの蟠りがそうさせたのか…いつもならまず知らぬ男に率先して声をかける
ことなどしなかったトンヌラだが、気付くと男のもとへ歩き出していた。
「……それ、『空琴の歌』の最新刊ですよね?うわあ、知らない間に3冊も進んで
 たんだ!」
「ええ、よくご存知ですね。子供向けだなんて馬鹿にする人もいますが、
 これはサマルトリア文学の最高傑作ですよ」
「ですよね!騎士の空姫に対する献身と報われない想いが、ほんとうに
 切なくて……あ……ごめんなさい、見ず知らずの人にこんななれなれしく」
「いいえ。僕らは同じ"空の子"じゃありませんか。こんな所でお仲間に会えるとは」
"空の子"とは、この童話を愛する読者同士が互いを指して呼ぶ合い言葉のような呼称だ。
サマルトリア本国ではその大半が歳若い少女達であったのだが。
「お読みになられますか?僕は、もうあらかた目を通してしまいましたから」
「よろしいんですか?ありがとうございます!」
子供の様に目を輝かせ、トンヌラは本を抱きしめた。が、楽し気な相手の微笑に気付き
いそいそと居住まいを正す。
「やだな、はずかしいや。……子供みたいでしょう。よく、あるじ……友達にも
 からかわれるんですよね。つくり話に夢中になるなんて馬鹿らしい、って」
「おや、そうですか?フィクションを理解しながら楽しむことは立派な大人の遊戯だと
 思いますがね。活字にすぎない登場人物達に感情移入して一喜一憂なんて、
 感受性豊かで賢い人にしか出来ないことですよ」
「そう……でしょうか」
「ええ」
迷いのない返答にトンヌラは思わず頬を染めた。
「僕はしばらくここに滞在していますから、まだ二三日は大丈夫ですよ。
 ゆっくり楽しんでください」
「あ…」
そう言うと男はついと席を立った。
「あの……ありがとうございます!」

本当に嬉しそうなトンヌラの声を背中に聞きながら---男は紅い唇を舐め、こっそり
北叟笑んだ。


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Date:2009/11/28
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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