トンヌラ頑張れ。超頑張れ。

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□ 短篇(ロンダルキア編) □

空の白、大地の紅

「……つまんないの」

誰にともなく呟き、カリーンはお気に入りの絵本をぱたんと投げ出した。
幼いながらも行儀作法をきちんとしつけられてきた姫宮には少々
めずらしい不作法だったが、それも無理からぬことだった。
ロンダルキアの冬は長く厳しい。ことにここしばらくというものは
悪天続きで、もう二週間近くもカリーンは外の空気を吸っていない。
両親や兄、城の者達もそれは同じことと理解しているから、
わがままは言わない。
……それでも。薄暗く重たい石造りの「家」は皆を守ってくれる砦とは
いえ、幼い少女に必ずしも快適な遊び場であるとは言えなかったのだ。

(せめて吹雪がやんだら、お外で遊べるのにな)

双子の兄や友達とのそり遊びや雪合戦はとても面白く、寒さなど
忘れてしまう。石積の頑健な壁越しにも聞こえる風の音に耳をすませ、
カリーンはほっと吐息をもらした。
シーツに無造作な皺を作っている厚い絵本をそっと取り上げ、丁寧に
書棚へと戻す。
どんなに退屈していても、彼女は「お姫さま」としてのたしなみを
忘れていなかったのである。



「……おとうさま?」

遠慮がちに声をかけながら執務室をのぞき込むと、父王は大量の書類の
前で大儀そうに欠伸を噛み殺していた。

「なあんだ、おとうさまもわたしと同じなのね」

つい、くすくすと笑いが漏れる。娘の姿をみとめたズィータは無理矢理
しかつめ面を作ってみせた。

「なんだ、なにか用か」

母の姿は見えない。今の時間は上の兄たちに勉強を教えているのだろう。

「ううん。おしごと、おいそがしい?おじゃまだったら、おへやにもどるわ」
「忙しいように見えるか?」

ズィータは肩をすくめて見せ、羽のペンを投げ出した。勉強をさぼる
よい口実を見つけた少年のようなこ狡くもどこか無邪気な笑みを浮かべて、
駆け寄る娘を膝に抱き上げる。

「おとうさまのうまれたお国では、こんな日はどのように過ごされていたの?」

王の表情が微かに曇る。だがそれはすぐに昔を懐かしむような色に変わった。

「ああ……ローレシアでは冬になっても滅多に雪は降らなかったからな。
 たまに降ったら、城下の子供達にはちょいとした祭みたいなもんだったらしい」
「ふぅーん」

ほぼ一年中雪が地上を覆うロンダルキアでは、ちょっと想像のつかないことだ。
それでも、聞いてみれば子供達の遊びに大差はなかった。
雪玉を投げあったり、女の子は真っ白い兎を作ったりもする。
自分達と変わらないその光景を思い浮かべて、カリーンは無意識に笑みをうかべた。

「じゃあきっと、おかあさまのところも同じだったのね」
「あいつの国は一年中春みてえなゆるんだ陽気だからな……
 ローレシア以上に雪は珍しかったんじゃねえか」

そう言われれば、母はけっこうな寒がりだ。この雪の国に嫁いでもう何年にも
なるはずだが、いまだに暇があれば城に住むスライムの子やベビーサタンと
一緒になって大きな暖炉側で丸まっているところを見かける。

「サマルトリアか……」

ズィータはひとりで何か頷くと、娘をそっと床に下ろした。

「ちょっと待ってろ、そのへんの物はさわるなよ」

母に似た癖のある金髪をひと撫でして、部屋をあとにする。
しばらくして戻ってきたズィータの手には、ふんわりとした白いものを
載せた銀盆があった。ふたつの皿に盛られた真新しい雪。その隣には
サマルトリア原産の赤い果実の鉢。
きょとんと見守る娘の前で、ズィータは苺の実を匙で潰しはじめた。

「展望台の屋根から取ってきた雪だ」

世界でいちばん高いところにあるロンダルキアの、いちばん高い場所
---つまり、一番空に近い雪だ。
苺を潰した赤い滴を注ぐと、裾野までじわじわと綺麗なピンクに染まっていく。

「うわぁ、きれい」

ズィータは銀の匙をその横腹に突っ込み、無造作に差し出した。

「食ってみな。空の味がするぜ」
「いただきますー!」

満面の笑みで匙に山盛り雪をほおばり、その冷たさにぎゅうと目をつぶる。
つめたい。すっぱい。でも、とってもおいしい!

「雪遊びは出来なかったけどな、侍従やらに内緒で……降ってくる雪を
 そのまま食ったりはしたんだ。すぐに溶けちまって、
 味なんか分からなかったけどな」

幼い父が口を開け降ってくる雪を受け止めようとするさまを思い描いて、
カリーンはこっそりと笑った。

「……トンヌラには内緒だぜ?あいつ、赤くなった実の数を
 ひとつひとつ確かめてるからな」

しっ、と口元に指をあてて見せる。おとうさまったら、また苺を
盗んできたのね。せんもひとりで最初に赤くなった苺を食べて
しまったことでおかあさまと言い争っておられたのに(そんなことで
喧嘩ができるのはなにより仲のよい証拠ですぞ、と一つ目巨人の臣下は
言ったのだけれど)。

でも、大好きなおとうさまと、おにいさまたちも知らない
小さなひみつを共有できるのはちょっぴりうれしいな。
小さな姫君はくすりと笑い、またひとさじの雪を口に運んだ。
やわらかな雪は羽毛のように唇の間で溶けていく。
甘酸っぱい苺の果汁がその後を追い、軽やかな余韻を残しながら
消えていった。

「おいしいわね、おとうさま。
 ローレシアのお空と、サマルトリアの大地の味なのね」

むぐっ。
娘の言葉に、竜王は匙に大きく盛った雪をそのまま吸い込んだ。

「………………、黙って食え」

照れたときいつもそうするように、ズィータはぷいとそっぽを向いて
娘の髪をくしゃくしゃと撫でる。
大きな掌のくすぐったい感触に、雪国の姫は声をたてて笑った。





というわけで、リクエストありがとうございましたー。
ひさしぶりでございます。一家は元気です。

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