トンヌラ頑張れ。超頑張れ。

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□ diva affonda □

Diva affonda・2

「あなたの翼はとき放たれた。どこへでも、自由な大空へ飛んでおいきなさい」
それがきちんと動くのをたしかめるように瑠璃いろの翼を数度はためかせ、空姫は立ち上がり
ました。もう姫の足をしばる鎖はありません。けれど姫は開け放たれたかごの中からなかなか
出てこようとはしませんでした。銀騎士は、さあ、とうながすように手をさしのべます。
地に伏した竜の巨体を、空姫はすこし悲しげにみつめました。そして、しずかに首をふったのです。
「ごめんなさい、わたしはともに行くことはできません」


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 軽い音を立てて本を閉じると、トンヌラは長くため息をついた。こんなに気になるところで
続きだなんて。基本、少女たちに向けて書かれたこのシリーズは文字数も多くなく入りやすくは
あるのだが、すぐに読み終わってしまう物足りなさが欠点といえば欠点だ。だが、数年ぶりの故郷の
童話は頁数以上に胸躍らせるものがあった。ロンダルキアで手に入る数少ない書物といえば兵法書の
たぐいの実用的なもの、よくても重厚で難解な詩の本だ。登場人物に自分を重ね肩の力を抜いて
楽しめるようなものは、民達の口伝えレベルまで行かなければ見つからない。
いったいこの後彼らはどうなるのだろうーーーートンヌラは少女達と同じように想いをめぐらせた。
恐ろしい魔法の竜から解放されたはずの姫は、何故大空へ飛び立たないのか。さまざまに物語の
続きを空想するだけで、またしばらくの間は退屈せずにいられると思った。
(この本、早く返してあげないと)
青年に借りた本は箱から出したてのように新しかった。ひととおり目を通した、とは言っていた
もののまだそれほど読み込んではいないのだろう。いつまでも見ず知らずの自分が持っている
わけにはいかない。
 胸を押さえる下着と質素なチュニックに着替えているとズィータが入ってきた。
「また出歩くのか」
あきらかに不機嫌な声だが、はっきりと咎めるふうでもない。医者から適度な外出を薦められて
いるので、強く縛りつけることを躊躇しているようだった。
「……すぐもどりますから」
そのことを知っていながら。ずるいな、と自分でも思った。夫の目から本を隠すように抱え、早足で
居室を出る。息子達もまだ剣術師範のもとから帰っていなかった。
 今日は早めに下がらせてもらって、ゆっくりあの子たちと遊んであげよう。最近は体調のせいで
あまり相手をしてあげられなかったから。

 湯治場は相変わらずの賑わいを見せてる。談笑する男達の中に、トンヌラは青年の姿を探した。
(あれ……今日は来てないのかな)
目立たぬ容姿ではない筈だが、ひととおり見回したところそれらしい顔は見あたらない。
考えてみればしばらく滞在するとは言ったが、常にここにいるとも限らないのだ。仕方がない、
小屋番に預けて渡してもらおう。
「どなたをお捜しですか」
腰をあげかけた時、背後から声をかけられる。見ると先日の男がちょうどこちらへやって来る
ところだった。
「あ、よかった!」
トンヌラはどこかほっとした気持ちで男に会釈した。
「これ、ありがとうございました」
「早いですね、もう読み終わったのですか?」
男は驚いたような顔をしてみせる。
「はい。ずっと続きが気になっていたものですから、もう夢中で読んでしまいました」
「でしたら、しばらくお貸ししますよ。何度も読み返すうちに新しい発見もあるでしょう」
「でも……」
男の申し出はありがたかった。だが、できれば早くこれを返して関わりを終えてしまいたくもある。
ズィータは下僕が外の人間と会話することを快く思わなかった。
「買ったばかりの本を、僕みたいな見ず知らずの者が独占するのはよくないですから」
「買ったばかり……そう見えるなら光栄です。僕は本を汚すのが嫌いでしてね」
「でも……それじゃあ、なおのこと……」
戸惑うトンヌラに、男はふいにいたずらめいた笑いをうかべた。
「それにね」
勿体ぶった仕草で懐から何かを取り出す。
「………………あーーー!!」
人目も忘れ、トンヌラは大声をあげてしまった。今自分が手にしているものと同じ装丁の本が、
二冊。いっせいに集まる視線にトンヌラは赤面して口を押さえた。
「"空琴の歌"、全8巻で完結です」
「えぇ~!?話、進んでたどころじゃなかったんですね…ショックだぁ……」
「ちなみに、続編もちかぢか刊行されるということですよ。だから、はい」
そういうと男はトンヌラの手に本を一冊だけ手渡した。
「あんまり一気に読んでしまっては楽しみが減るでしょう?読み終えたら、また続きを
 お貸ししますよ」
「……………………」
困った。ここで男の言葉に甘えてしまえば関わりを絶つことができない。
(本は、つぎにサマルトリアから商人が来たときにでも頼めばいいじゃないか)
だが、その「つぎ」がいつになるかの確証はない。親しげに目の前で笑う男の好意を無碍に
することも忍びなかった。なにより……あれほど気になった物語の続きが、手の中にあるのだ。
「……じゃあ……一日だけ、貸していただいてもかまいませんか?あ、ぜったい汚さないように
 しますから」
「一日といわず、どうぞ。急いで流し読みしたのでは楽しむものも楽しめないでしょう?」
「ありがとうございます」
トンヌラは本を抱きしめ、ぺこりと頭をさげた。軽い罪の意識は、物語の続きが読める喜びに
押し流されていた。
「君も、この温泉にはひとりで?」
「えっ?…あ……はい。すこし、その、休養に」
どう答えてよいか分からず、歯切れの悪い言葉を返す。
「いい所ですね、ここは。正直、以前は閉鎖的で得体の知れない恐い国だっていうよくない
 イメージを持っていましたが…世代が代わってから、だいぶ変わってきているようでは
 ありませんか。聞けばサマルトリアから迎えた王妃様はとてもよい方で、国交の回復や魔物との
 共存のために多大な貢献をなさっておられるとか。まさに現世の女神とも呼ぶべき方ですね」
「……そんな…王妃は……みんなが言うような存在じゃありません」
トンヌラは困惑し、視線を逸らしながらつぶやいた。自分は本当にズィータにふさわしいのかと
ずっと悩んできた。畏敬されるべき竜王に対し、あまりにも取り柄のない自分。
民は"竜王の妻たる神鳥"という名を盲目的に崇めているだけなのではないかと。押し黙るトンヌラを
男は黙って見つめていたが、やがてついと立ち上がると休憩所の一角からグラスをふたつ手に
戻ってきた。
「君もどうですか」
「あっ……」
うすい赤色の中身はトンヌラが命じて置かせているポットのいちご水だった。湯治場を利用する者は
希望すれば誰でも無料で飲むことができる。男はグラスに唇をつけると、美味しそうに一息で
飲み干した。満足げな息を吐き、にっこりと笑ってみせる。
「女神かどうかは別としても……こんな心遣いのできる方ならきっとよい妻、よい母であるに
 違いありません。夫たる王にとっても、国民にとっても……ね」
「…………………………」

両手でグラスを抱えたまま、薄紅の水面にうつる少年の貌をトンヌラはただ見つめていた。
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Date:2009/11/29
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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