トンヌラ頑張れ。超頑張れ。

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□ diva affonda □

Diva affonda・3

「とうさまとかあさま、けんかしてるの?」
幼い息子から投げかけられたふいの問いに、ズィータはぎくりとした。
「…そう見えるのか?」
「うん」
動揺を押し隠して尋ねる父に、双子は左右から同時に頷いた。
「かあさま、さびしそう」
「とうさま、こわいおかおしてる」
今度は違う言葉が---ある意味では同じ意味の言葉が、やはり同時に発せられる。取り繕おうとした
ところで子供には分かってしまうものなのか、とズィータは苦笑した。面倒なものだな、と思う。
 以前はもっと簡単だった。奴隷がわずかでも反発の意志を見せれば撲り、罵り、己の立場を
わきまえさせて黙らせればよかった。しかし、息子達が生まれてからは変わった。そろそろものの
分別もつく頃、決して彼らの前でトンヌラには手をあげるまいと彼は心に決めていたのだ。
(俺は、あいつとは違う)
父---ローレシア王が母にどんな仕打ちをしたか、ほんの小さな子供だったがズィータはすべて
覚えていた。人格を認めぬほど罵り、必ずと言っていい程手を挙げ、思い出したくもないような、
もっと酷な仕置きをした。耐えきれなくなった母の心が暗い牢獄にみずからを閉じこめてしまう
まで。
息子達には自分と同じ気持ちを味あわせたくはない。
「……分かった。母様に謝る」
観念したような父の言葉に、双子はうれしげに瓜二つの顔を見合わせた。
 だが、なんと言えばいいのだろう?対等な立場で女性と身近に接した経験のないズィータは
悩んだ。婦人の歓心を買うには贈り物がいい。……いつか、優しい瞳をした誰かから聞いた気のする
アドバイス。
 迷った末、地霊たちの手による美しい細工ものの指輪を選んだ。下界の町では結婚相手に指輪を
贈るのが半ば当たり前の習慣であるらしい。ロンダルキアの鉱山でも質の良いものは滅多に獲れる
ことのない白金を、神鳥の羽根のデザインされた優美な指輪に仕立てさせた。

「……やる」
箱や手渡すときの演出に凝るような器用さを持ち合わせないズィータは、ただそうとだけ言って
剥き出しの指輪を妻につきつけた。突然のことに、トンヌラは目を丸くして主人を見やった。
「これ……なんでしょうか?」
まじまじと、どこか探るように指輪を眺める。また何かあやしげな呪法の込められたものでは
ないかと疑ったのだ。むっとした顔でズィータは言った。
「夫が……ただ、妻に贈り物をしたら何かまずいのか」
「---えっ……!?」
先程とは違う驚きに彩られたトンヌラの頬が、ほんのりと染まる。
「この間は……その……俺も悪かった、と思う」
「……ズィータ様……」
「フォル達が気にするから……シケた顔は止せ。命令だ」
指輪をそっと握りしめ、微笑んでトンヌラは頷いた。
「…そうですね。僕こそ、意地を張ってごめんなさい」
胸がほんのりと暖かくなった。不器用な主の精一杯の心遣いは、百編の美辞麗句にも勝る。
やっぱり僕はこの人が好きなんだ、と改めて思った。

 ---これは、もう返そう。中途に栞の挟まれた本を手にトンヌラは頷いた。続きは確かに
気になるけれど、手に入る機会はまた気長に待てばいい。これまでだって待ったんだから。
自分に言い聞かせるように繰り返しながら湯治小屋へ向かう。

「おお、王妃様……ちょうど良かった」
管理を任せている人間の老人は、トンヌラを見るとほっとしたように話しかけて来た。
「これ、忘れ物だと思うんですがな…どうしたらええかと……」
老人の手にしているものを見て、小さく息を飲む。それはあの男が見せた本の最終巻だった。思わず
持って来た本を後ろ手に隠す。
「忘れ物……ですか?」
「ええ。ここに泊まっとる者にはみな尋ねさせたんですが、誰も心当たりがないと……」
それでは、あの男は帰ってしまったのだろうか。どうしたらいいのだろう。と、本の間からひらりと
一枚の紙が落ちた。何気なく拾いあげ、トンヌラははっとした。
"空の子へ。出会いの記念に、本は差し上げます"
流麗な筆記。おしまいの所には翼に似たマークが描かれていた。作中に出て来る空姫の一族、
翼の民のシンボルだった。
「すみませんが……これ、お預かりしてもよろしいでしょうか?出入りの商人に託してみます」
「おお、そうしていただければまことに助かります」

 拍子抜けがしたような心持ちで、トンヌラは二冊の本を眺めた。---これでよかったのだろうか。
つい持って来てしまったが、もう中を読む気にはなれなかった。安堵とともに、胸のうちがわを目に
見えない小さな爪に引っ掻かれているような奇妙な気持ち。……これはいったい何なのだろう。
「…友達になれると思ったのに」
感情を確認させるように呟いてみる。同じ話題を分かち合える友人が出来ると、自分はただ少し
浮かれていたにすぎない。そうだ。主や臣下の者は必要以上に気を揉むが、どだい自分は
出来損ないの男なのだ。このような気味の悪い存在に、友情以外の目をむけてくる者などいる
はずもないのだから。
……ただひとりの主を除けば。
 このことはもう忘れよう。自分に命じると、トンヌラは狭い書棚の片隅に本を大事に仕舞い
込んだ。

 些細な出来事が王妃の心を揺らしてから数日が過ぎたあと、デルコンダルから一通の便りが
届いた。そこには魔獣を用いた武闘会の廃止と、闘奴の解放を報せる旨が書かれていた。
突然の武王の変心をまともに受け取るものは誰もいなかった。
「胡散臭ぇな……何を企んでやがるんだか」
吐き捨てるように言うズィータの横で、トンヌラはひとり安堵していた。夫もその頭脳たるバズズも
王の手紙には疑いしか持たない様子だが、せめて自分だけは信じていたかった。
人はかならず変わる。冷酷で荒々しいズィータの所行さえ、不器用で繊細な自己を守るための鎧と
知った今---誰でも根気づよく語りかければきっと分かってくれるものなのだと。
(---------------!?)
主のもつ手紙を覗き込んで、トンヌラは息をのんだ。さり気なく…じつにさり気なく、署名の後に
付け加えられていた印。それはあの翼のマークそのものだったのだ。細く、いささか右に傾いた
独特の文字の癖も同じだった。
(そんな……まさか……)
闘技場でかいま見た王の容貌が男の顔と重なる。仮面の下から覗いていた葡萄色の目と右頬の黒子。
やはりそうだ。
「どうした?」
急に血の気を失った妻の顔色に、ズィータは不審げな声を出す。なんと答えたかも覚えていない。
 自室に戻ったトンヌラは、書棚に並んだ緑色の背表紙を放心したように眺めていた。あの男が
デルコンダルの王だったとは。
『僕らは同じ"空の子"じゃありませんか』
親し気な笑顔を思い出す。残酷な遊戯を楽しんでいた王とはとても信じられなかった。だが、
あれが王の本当の姿だとすれば。
(……………………)
意を決し、トンヌラは二冊の本を手に取り、丁寧にスカーフで包んだ。黒いレースの手袋と、
その上から夫に贈られた大切な指輪を薬指に填める。夫や臣下に知れればきっと止められるだろう。
用件を終えたら直ちに飛んで戻れるよう、キメラの翼も用意した。身分を明かし、その上できちんと
決着をつけなければ。

 人の目を盗んでひらけたテラスに立つと、頭の中にデルコンダルの風景を詳細に思い描く。
風よ、この身を翼に。

『ルーラ』

王妃の黒いドレスが翻り、冷たい空気の中にその姿が掻き消えた。

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Date:2009/12/01
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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