トンヌラ頑張れ。超頑張れ。

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□ diva affonda □

Diva affonda・4

 南国の空気の中、突如として一陣の風が躍った。粉雪をまとった黒衣の貴婦人が音もなく
降り立つ。にわかに色めき立つ衛兵達の前で、トンヌラは静かに一礼して告げた。
「デルコンダル王、ベスティア様にお目にかかりたく---わたくしは、ロンダルキア王妃
 トンヌラです」
毅然とした態度に彼らは一斉に姿勢を正した。……慣れない口調だが、上手に言えただろうか。
夫に恥をかかせるまい、とトンヌラはかたく心に決めていた。いつか身分を偽って訪れたときとは
違う。自分がズィータに嫁して変わったように、今の王も血腥い遊戯を楽しむかつての王では
ない筈だ。
---そうあってほしい、とトンヌラは強く願った。
 伝令が慌ただしく行き来する。やがて王妃は城内に通された。重い音を立てて背後で閉まる扉に、
ほんの一瞬不安な気持ちが過る。
---だいじょうぶ。だいじょうぶ。
そう繰り返しながら、組んだ掌の上で無意識に夫から贈られた指輪を撫でる。
「ようこそ、空の子よ」
高い天井に声が反響する。トンヌラははっとしてそちらを振り向いた。浅黒い肌に象牙の髪。
男性にしてはやや高い声は、確かに聞き馴染んだものだった。王は仮面の下からトンヌラを
一瞥した。
「その節は……ありがとうございました」
いざ対面すると言葉が上手く出て来ない。トンヌラはやや間の抜けた挨拶をしながら頭を下げた。
---ああ。やはり、来るのではなかった。
「今日は……これを、お返しするために来ました。やっぱり、いただいてしまう訳にはいきません
 から……」
一刻も早く用件を終えてしまおうと、とにかく言いたいことだけを言ってスカーフにくるまれた
二冊の本を差し出す。王はさしたる興味もなさげにそれを受け取ると、小首を傾げながらトンヌラを
眺め回した。
「それが君の本当の姿……王妃としての正装というわけですか」
「ぁ………………」
こつり、と音をさせて王がゆっくり歩み寄って来る。本能的に一歩後ずさりながら、勇気を
ふりしぼってトンヌラは尋ねた。
「いつから…気がついていらしたのですか?」
「そう訊かれると困りますね……」
王は口元を歪めて笑い---丁寧に包まれた二冊の本を行方も確かめずに投げ捨てた。
「最初から……と言えば、答えになりますか?」
(!!)
サマルトリアの草色をした文庫は石床に跳ね、頁を歪ませながら無様に転がる。
「これでは主も気苦労が絶えないことだろうな……純というには、いささか世を知らなすぎる」
すでに口調はやさしげな友ではなく、耳慣れぬ異国の王のものに変わっていた。
その言葉を認めたくなくて……トンヌラはくしゃくしゃに投げ出された文庫をただ見つめていた。
皺になった頁のあいだから挿絵の魔竜が責めるような目付きで睨んでいる。
「次の手も考えてあったのだがね…君は、ほんとうに純粋なひとだ」
仮面の下で微笑んだまま王は告げた。トンヌラは身を翻して駆け出す。
---だめだ。ここでは、天井がある。キメラの翼は使えない。
大扉にしがみつき、開かないと分かりながら拳をたたきつけるトンヌラを嘲笑うようにゆっくりと
足音が近付いて来る。空。どこか、空の見える場所へ。トンヌラは必死に視線を走らせた。
 細い廊下の続く先に、ささやかな緑と降り注ぐ陽光が見えた。あの真上には空が拓けているに
違いない。逃げ道を求めて必死に駆け出す。からまるドレスの裾が煩わしかった。小さな空間には
クレマチスの花が植えられ、頭上からは太陽の光が降り注いでいる。ちょうどひと一人ぶんに
わずかに余る程のスペース。
だが、上空が開けた場所はここしかない。懐でキメラの翼を折ると、トンヌラはつよく夫の顔を
思い描いた。
「……ロンダルキアへ!!」
巻き起こる風が軽い王妃の身体を抱き上げる。……が、次の瞬間凄まじい衝撃とともに何かに
叩き付けられた。空へと運ばれるはずのその身は、天井の高さで留まっていた。格子状の天蓋が
銀色の光を放つ。
「…ぁ………………」
呪力に支えられながら、トンヌラの体は羽毛のようにひらひらと舞い落ちる。骨を軋ませる激痛に
意識が遠のいて行った。
「ごめんなさ……ズィータ……さ……」
夫の名を呟きながら、トンヌラは気を失った。
ただ、格子のあいだから突き出された左腕---黒絹の手袋と指輪だけが何処かへと消えていた。




(…………………………)
優しい旋律が体を包んでいた。誰が歌っているのだろう。幼い頃母に聴かされた子守唄を思い出す。
激しく打ち付けた関節の痛みが徐々に退いて行くようだ。
----痛み?
(!!!)
……そうだ。僕は体をおもいきり打ち付けて……!!トンヌラは青褪め、飛び起きようとした。
「つっ……!」
体中に痛みが走る。旋律が止んだ。
「…………ダメ、ウゴカナイデ」
たどたどしく幼い声がトンヌラを制する。ややあって、心なしか強い調子で歌が再開された。
癒しの効果を秘めた呪歌の類いなのだろうか。ホイミほどの即効性はないにせよ、体はずいぶん
楽になった。まだ痛む腕に無理をさせながら、トンヌラはおそるおそる下腹を探る。なにも
異常のないことを確かめて、ようやく息をついた。
「きみは……」
思い出したように顔をあげると、透き通る青色をした肌の不思議な少女が心配そうに覗き
込んでいた。いちど闘技場で見かけたことがある顔だ。傷ついた魔獣を狂わせ、血を沸き
立たせる歌を歌っていた少女。
「ソノママ、シバラクネテイテ、オキサキサマ」
少女に手を差し伸べようとした刹那、ぐらりと足元が揺らいだ。
(えっ……?)
トンヌラは、はじめてそこが巨大な鳥籠の中だと知った。先程王と対面した同じ広間で、
ちょっとした東屋ほどもある籠の中に少女とトンヌラは囚われていたのだった。
「目覚めたか」
先程の男の声が間近に聞こえた。見れば、仮面の王が眼下で薄笑いを浮かべている。
「愚かな鳥には似合いの籠だな」
「……く……貴男は……はじめから、こうするつもりで……?」
「自惚れないでもらおうか。お前のような醜い椋鳥に興味などない……
 私が欲しいのは荒ぶる紫鱗の竜……気高き黄金の瞳をした、あらゆる魔獣を統べる竜王だ」
「りゅ……」
うっとりとした口調で述べる王に、トンヌラは言葉を失った。この男は…主を手に収めるため、
自分に近付いたというのか。絶望に染まる王妃の表情に、少女は悲し気に顔を伏せた。
「ズィータ様を……あなたは……」
「そう、そんな名だったな……ひとの肉を纏い……美しき終端の王の名を持つ竜……」
「……残念だけど……あなたの思い通りにはいかないよ。あの人は、僕のことなんて助けに来ない」
いくらでも替えの効く肉奴隷……悲しいけれど、自分はその程度の身分にすぎない。魔物のなかには
いまも呪われた双形を魔王の妻と認めない者も多かった。人として生まれた身を女神の現し身と
認めない風潮があることも、トンヌラは知っていた。自分がいなくなっても、もっと彼に相応しい
后はいくらでもいる。
美しく、完全無欠な"女"で---憎むべきロトの血を引かぬ、純粋な魔物の血族。
「お前は何も分かっていないな---よかろう、見ているがいい」
王は謎めいた微笑を浮かべながら、鳥籠の格子をこつこつと叩く。少女は怯えた瞳でその姿を
じっと見つめていた。



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Date:2009/12/03
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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