トンヌラ頑張れ。超頑張れ。

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□ diva affonda □

Diva affonda・5

 トンヌラは夢を見ていた。
背中に生えた一対の青い翼をゆるやかに動かしてみて思い出す。ああそうだ、自分は空姫
だったのだ。細い魔法の銀線で組み上げられた鳥籠のむこうから、鋭い目で竜が見つめている。
籠の扉は開いていた。けれどーーー
(竜は、僕を守ってくれていたんだ)
岩喰い蜘蛛の網に捕らわれ翼を傷めていた自分を救い……愚かな雛鳥を捕食者の爪から護るため
籠に住まわせた。自由を与えられた今になってそんなことに気づくとは。
空姫は眼前に手を差し伸べる銀騎士にあらためて視線を向けた。
"何を躊躇われるのです?そんな醜い化物に、誤った慈悲をかけ給うな"
鎧の下で魂のない葡萄色の瞳が光る。後ずさる空姫の体が、がくんと落ちた。
ーーーその足先には何も無かった。

ごめんなさい。僕が馬鹿だったんだ。

風を捉えぬ翼を空しくはためかせながら、空姫は虚空をどこまでも落ちて行った。




天鵞絨に覆われたような濃い闇の中でトンヌラは目を覚ました。眠っている間に視力を失ったの
ではないかと錯覚するほどの漆黒。足に頑強な鎖をかけられ虚ろな目をしたサイクロプスに
籠ごと運ばれたのを、おぼろげに記憶している。
かすかな吐息が近くに聞こえた。手を延ばすと柔らかな感触に当たる。トンヌラは微笑んで
少女を抱き寄せた。

 少女はシエロと名乗った。シエロは魔物と人の子ーーーかつて王、ベスティアに仕えていた
王宮戦士とスライムの間に生まれたハイブリッドだった。魔物としては高い知能を持ち、
様々な生物を自身の細胞で癒すことの出来る貴重な種。洞窟の奥にひっそりと生き残っていた
スライムは子供のような純真さで戦士に懐いたがーーー
『それ程に互いを慕うなら、番うがいい』
媚薬を投じられたまま檻に閉じ込められたひとりと一匹は獣欲のままに交合し、そして卵が
産まれた。ひとの形とスライムの肌。どちらに属することも出来ない産まれ損ないの少女。
 清冽な水のある場所でしか生きられないスライムはじきに薄暗い牢獄で命を落とし、
戦士も己を呪いながら後を追った。

「オカアサンハ、キット、オキサキサマミタイデシタ」
目先の変わったペットして愛玩され両親のぬくもりを知らぬ少女は、それでもトンヌラに
母性を求めた。寄り添って来る身体はひんやりと冷たかったが、心細さからは目を
背けることができた。
ーーー息子達はどうしているだろう。ほんとうに、僕は愚かな母親だ。
(う……)
むせかえるような獣のにおいに、トンヌラは顔を顰めた。
……ここは……何処?次第に目が慣れてくると、自分の掌がぼんやりと白く浮かび上がって
見えた。ゆっくりと身を起こす拍子に籠が揺れ、天井から吊るす鎖が耳障りな金属音をたてた。
 ---ふいに、思いがけないほど近くで獣の唸り声が聞こえた。
(!?)
それと同時に、強い腐敗臭の混ざった吐息が漂う。闇の中にふたつの紅い光が灯った。
見覚えのある……そして、危険極まり無い輝き。トンヌラは籠の中で身をすくませた。
大きく開いたドレスの背に鉄柵の冷たさを感じながら闇に目をこらす。
突如、"それ"は鳥籠に激しい体当たりを食らわせてきた。
(!!!)
籠は大きく揺さぶられ、頑強な鎖が千切れるほどに軋む。籠の中でトンヌラの体は
右へ左へと弄ばれた。幾度目かの衝撃で急に視界が拓けた。鳥籠は黒紗で全体を覆われて
いたのだった。牢獄のような石壁の、広く薄暗い広間。生暖かい息がまともに吹きかけられる。
籠の雛鳥に涎を垂らし、牙を剥き出しているのはキラータイガーだった。先に闘技場で
ズィータが倒したものよりは小柄だが、それでも背までの高さは牛ほどもある。
油気のぬけた毛皮は半ば白茶け、肋が見えていた。おそらく年老いた個体であるのだろう。
だが、魔獣は老齢とは思えぬほどなにかに飢え、狂乱の態を見せている。トンヌラは魔獣の瞳に
かつてと同じ尋常ならざる光を見た。猛る王は、この個体にも獣の血を滾らせる危険な薬を
使ったのだろうか。
「償ってもらおうか、お前に」
咆哮の合間に冷ややかな声が降って来る。一段高い桟敷席のような場所から、デルコンダルの王が
こちらを見下ろしていた。
「番うべき相手であり子であった雌の剣歯虎を殺されてから、そいつはずっとそんな調子
 なのだーーーお前がその代わりとなれば都合が良かろう」
「なに……を……!?」
キラータイガーを振り返って、王妃は息をのんだ。痩せて骨張ったけだものの股間……そこに、
屈強な男の腕よりもずっと太く、棘を生やした猫科動物のペニスが真っ赤にのたうっていた。
息の詰まるようなにおいの元は腐敗した口臭だけが原因ではないのだとトンヌラは悟った。
ーーーまさか。
「お前は竜との間に子を生したというな……クク……面白い。それが混沌の性をもつ魔物
 ラーミアの力か。どんな生き物の精でも受け入れ子を孕む……なんと淫らな血をしているのだ」
「ちが……僕はそんな………………」
しかし、否定の言葉は弱々しかった。自分でも、女神と呼ばれる肉体が実際にどんなものなのかは
まだよくわからない。歪な少年の部品をもってはいるが、自分は女……だから、夫に愛されて
子を孕んだ。それが当たり前だと思っていた。……いや、思い込もうとしていた。シエロは
抗議するように王を睨む。
「女神が笑わせる。所詮はその下等な生き物と同じ生まれ損ないではないか」
「ああっ……!!!」
執拗な攻撃に、ついに鳥籠は床に落下した。咄嗟に少女の小さな体を抱きしめて衝撃から庇う。
『人の手に戒められた監よーーー物理の軛より解き放たれよーーーアバカム』
高らかな王の詠唱とともに、箍の弾ける不吉な金属音が響いた。ふたつのたおやかな影の前で
ゆっくりと籠の底が外れていく。
「償ってもらおう……魔獣の仔を孕んで」
巨体が飛び掛かってくるのと早口の呪文が完成するのはほぼ同時だった。
『雷よーーーギラ!!』
鼻先を焦がす小さな稲妻にキラータイガーが一瞬怯む。シエロのちいさな体を抱きかかえながら
トンヌラは籠を飛び出した。のしかかる魔獣の重さに鳥籠は大きく歪んだ。視力も弱って
いるのか、顎は闇雲に空を噛む。シエロの唇から細い悲鳴があがった。
(ーーー!)
トンヌラは少女の頭を胸に抱え込んだ。その声に反応したように魔獣が振り向く。獲物の臭いを
嗅ぎ付けた猫特有の残忍さで、魔獣はわざと緩慢な足取りで間合いを詰めてくる。老いた魔物
とはいえ武器もなしにひとりで太刀打ちできる相手では到底ない。
まして今は無垢な命を預かる身……
だが。
(護らなきゃ…………せめて、この子だけでも……)
絶望的な覚悟で神鳥は魔獣と対峙した。王はさも愉し気な笑みに口を歪めて眼下の遊戯を
見守っていた。
ーーーあの人の名など、聞かせてやるものか。
トンヌラは血が滲むほど唇を噛み締めた。愚かに夫の名を呼び助けを求める姿など、死んでも
見せられない。それではあの厭わしい男の思う壺だ。気高き竜王の尊厳を汚させてはなるまい。
視線を魔獣に定めたまま、トンヌラは小声で少女に命じた。
「逃げて」
肩を優しく突く。少女の体が離れると、王妃の股間にじわりと濡れた滲みが広がり始めた。
それはみるみる太腿をつたい、足元に薄い琥珀の水溜まりをつくる。キラータイガーは
鼻を鳴らし、唇を引き上げてーーー笑った。
やはり、思った通りだ。
足の震えを抑えながらトンヌラは次の詠唱を始めた。雌の尿の臭いに魔獣は目ざとく反応し、
逃げて行く未成熟な少女にはもう目もくれなかった。
『ベギラマ!!!』
激しい閃光が魔獣を照らす。深紅の鬣が悪臭を放ちながら燃え上がったが、発情した
キラータイガーは最早ものともしない。広間の反対側で身を竦ませるシエロを盗み見ながら、
できるだけ少女から遠くへ身を翻す。矢継ぎ早に繰り出す雷撃は毛皮を焦がし、肉を縮ませる。
それでも魔獣は執拗に襲いかかって来た。
駄目だ。僕では駄目だ。
いたずらに増えて行く魔物の手傷に、一撃で相手を仕留めたズィータの姿が過った。
ーーーあれは、彼の慈悲。今更ながら、主を非難した己の浅はかさを痛感する。呪文を繰り出す
精神力ももう尽きかけている。最後の手段はなんとしても使う訳にはいかない。
いちかばちかの可能性に賭け、トンヌラはロンダルキアの氷の魔神に祈った。
『穢れ血よ、凍れーーーザラキ!!!』
一瞬の静寂。
魔獣は髯をふるわせ、どうと倒れた。
(……やっ……た?)
肩で息をしながら、トンヌラは横たわる巨体を眺めやった。股間を濡らす感触がいやに冷たい。
主ほどの腕があれば、もっと安らかに眠らせてあげられたのに。自責の念にとらわれながら
こわごわと魔獣の顔を覗き込む。魔獣は血走った目を見開いたまま微動だにしなかった。
……せめて瞼を閉じてあげよう。恐ろしさも忘れ、手を延ばしかけたときーーー少女の歌が
聞こえはじめた。
 赦しを乞うような目でトンヌラを真っ直ぐに見つめながら、シエロは歌っていた。虚ろな
魔獣の瞳にふたたび真紅の光が宿る。
「ーーーーーっ!!!!」
恐ろしい力で跳ね起きたキラータイガーに弾き飛ばされ、トンヌラの身体は宙を舞った。
太い前脚が爪を立て、獲物を押さえ込む。呪力を使い果たしたトンヌラにもう抗う力は
残されていなかった。魔獣の牙が、皮膚を裂きながら下着もろともドレスを引き破く。
膨れ上がった魔獣のペニスは血を滲ませ、赤い先走りをだらだらと垂らしていた。
「ぁ……あ………………」
白い下腹におぞましい熱が触れる。生臭い獣の涎を顔に受けながら、トンヌラはとうとう叫んだ。
「いゃあーーーーーーーー!!!ズィータ様……ぁーーーー!!!」
ーーーその声と同時に、秘所を犯そうとする魔獣の肉から全身に黒い雷が駆け巡った。
吹き飛ぶ剣歯虎の身体にまとわりつく火花は床に散っても残光を発し続けていた。
「……ほう?」
興味深げな声を漏らすと、ベスティアは初めて身を乗り出した。今度こそ絶命した
キラータイガーの傍らで力なく神鳥は気を失っていた。白くわずかな膨らみをもつ腹部は
未だ、失われた邪神の禁呪ーーードルモーアの光をほのかに放っていた。


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Date:2009/12/07
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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