トンヌラ頑張れ。超頑張れ。

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□ diva affonda □

Diva affonda・6

ルプガナの港に時ならぬ旋風が吹き荒れる。木箱の小魚と海水が竜巻のように舞い上がったと
思うと、黒衣の男が忽然として現れた。ルーラ、或はキメラの翼の効果を見慣れぬ田舎漁師
たちは戸惑いおののきながら長身の男を見やった。
「……ネーヴェ様!?」
箱から飛び出す飯蛸を慌てて拾い集めていた娘が声をあげる。ネーヴェ---いつか旅先で
思いつくまま口にした出鱈目の名を耳にしても、ズィータは娘に一瞥もくれることは
なかった。手にした小笛を唇に宛がい、目をとじる。……なにも音はしなかった。
念を押すように、もう一度息を吹き込む。
……ややあって、ズィータは舌打ちしながら山彦の笛を懐に戻した。
「あ…あんた、いつか魔物と騒ぎを起こした……どうしてくれるんだ、獲物を
 こんなにしちまって!!」
我に返った年かさの漁師が戸惑いを隠しながら彼につめよる。---が、凶暴な瞳に睨まれて
すぐに黙り込んだ。ズィータはキメラの翼を折り、宙高く投げ上げた。その姿は風に捲かれ、
漁師達の眼前でふたたび何処かへと消え去った。ひとひら舞い落ちる羽根を掌に受け、
船主の娘はひとり消え去った面影を胸のうちに反芻していた。

 …………畜生。どこへ迷い込みやがった。
港町からさらにふたつの村をめぐっても、妻の姿を見つけることはできなかった。
黒い旅の軽装をまとったズィータは苛立ち紛れに街道の古木を乱暴に蹴りつけた。
指輪を填めたままの手袋をつよく握る。キメラの羽のひとひらとともにこれが戻ってきたのは
つい二日前のことだ。ーーー身籠もった女の心はただでさえ揺らぎがちなのだから、と内侍
からも注意されたというのに。
ーーー面倒臭ぇ奴だ。
妻との諍いを思い出して忌々しげに舌打ちする。少し前にも些細なひとことが原因で勝手に
城を出たばかりだというのに。ルーラの対象内となる街や村はあらかた探した。
あの細腕で単身洞窟に潜り込んでいるとも思えないが……或いはどこかで行き倒れに
なってはいないだろうか。
…てめえは俺の奴隷だろうが。ひとりじゃ何もできねえ癖しやがって。
苛立ちは憔悴へ、やがて祈りに変わっていた。……そろそろ意地を張り続けるのも限界
かもしれない。一度ロンダルキアに戻って手を打たなければ。魔物どもに奴隷とのいざこざを
知られるのは癪だが。
 ズィータは頷き、最後の一本となったキメラの翼を空に放り投げた。


「ーーーあ、とうさま!」
「とうさま!おかえりなさい!」
城の中庭に降り立つ父親の姿をみとめ、双子が駆け寄ってくる。
「ね、かあさまみつかった?」
「かあさま、いつもどってくるの?」
両側からの痛い問いかけに、ズィータは無理に笑って答える。
「母様はな、ちょっと迷子になってるんだ。大丈夫、すぐ見つけてやるからな。
 ……そうだな、腹空かせて帰ってくるだろうから、籠一杯苺を摘んでおいてやれ」
「はい」
「はーい!」
異口同音に元気よく答えると、双子はまた元気よく走っていった。
…あいつ、ガキどもにまで心配をかけやがって。戻ってきたらただじゃおかねえ。
無事でさえいてくれればという祈りは一回りして再び怒りに変じつつあった。
「おお陛下、お戻りになられましたか」
主君の帰りを見て、アトラスがいつになく緊張した面もちで書簡を差し出した。
「つい先刻、デルコンダルの小悪魔から親書が届いておりまして……」
「…デルコンダルだと?」
ふっと、奇妙な不安が胸をざわめかせる。ズィータは巨漢の手から細い封筒を
もぎ取るとその場で封を切った。

世にも珍重なる鳥が迷い込んできました。
是非ご照覧あられますように。

気まぐれな南国の王が変わった魔物を手に入れたときたびたび寄越したものと変わらぬ
ほんの短い手紙だった。ーーーだが。
(………………!)
便箋の間に挟み込まれていたものを見て、ズィータは顔色を変えた。何気なく見落として
しまいそうな、陽に透けるほど淡い金色のひとすじ。トンヌラの髪だった。
(あの胸糞の悪い国にーーー?畜生、何を考えてやがる!!)
ズィータは掌の紙片を握り潰すと、呆気にとられる家臣の前から身を翻した。


(ぅ………………)
内股の疼くような熱に意識を呼び覚まされる。目覚めたトンヌラの視界に遮る鳥籠の
柵は無い。肌にあたる空気に、自分が服を着ていないことに気づく。
(僕は、どうして……)
気を失う寸前の記憶が蘇り、血の気が失せた。……まさか、あの魔獣は……
必死に呼吸を押ちつかせ、自分の肉体の声に耳を澄ませてみる。主に抱かれたあとの
ような心地よい倦怠やぬかるみの残滓、子宮の痛みは微塵もない。胎の奥の奥で、
だいじょうぶだよ、とでも言いたげなかすかな動きを感じた。
「…もう動けるんだね」
口に出してみると不安な気持ちが不思議と消えていく。彼の血を引く半身がそこに
いてくれると考えると、絶望の淵を覗きながらもかろうじて踏み留まることができた。
そのことにいくぶん落ち着いて、手首から肩を支配する痺れるような痛みにようやく
気づく。トンヌラは両手首を頭上で縛り上げられ、広間に吊されていた。
何時間前からこうされていたのか、体重を支える腕は血の気を失い痛みの感覚すら
失いつつある。
(あっ……?)
ふたたび、じわんと内股のある一点が疼いた。"山彦の笛"の人には聴こえない音に
反応して充血する焼き印---命の紋章。奏者の耳には幽かな木霊となって音色が届く
はずだった。
 少なくとも一里以内にあの人が居る。
喜びと困惑、綯い交ぜとなった気持ちが胸中に渦を巻く。
どうしてなの……奴隷の替えなんて、いくらでも居るのに。邪神の器を産んで
僕の役目は終わったのでしょう?
"妻"を助け出しに来てくれる---そんな虫のいいことは思うまい。はっきり違うと
言われたとき、悲しいのは自分なのだから。
(っ……)
紋章の熱さに身をよじらせると、縛られた手首がちぎれそうに痛んだ。苦痛に
朦朧とするトンヌラの耳に、細い歌声が聞こえてきた。ホイミに似た涼しい空気の
そよぎが体を包み、いくぶん痛みが和らいでいく。
「シエロ……」
視線をあげた先に、癒しの歌をうたう少女の姿があった。
「……ゴメンナサイ、オキサキサマ」
トンヌラの声に気づいたシエロは顔を伏せ、歌にのせてかすかにつぶやいた。
「謝ることなんてないよ」
トンヌラの声は優しかったが、そうではない、というように少女はきつく目を閉じた。
鳥籠よりも鎖は短く、トンヌラの体はさらに高い場所で不安定に揺れていた。
「その鎖は頑丈だ。暴れれば腕がもげるぞ」
嘲りを含んだ声がふいに響く。トンヌラは気丈に王を睨みつけ、唯一の抵抗を試みた。
「竜が下界に降りてきたか」
赤く染む紋章を見上げて、ヴェスティアの声に喜色が差す。はっとして内股を
すり合わせようとするが、すでに遅かった。
「貴方などに、竜王が囚われるものか」
虚勢ではなかった。地上でズィータと拮抗する存在など、勇者の再来とされる真弟を
除けば魔族にさえ無いだろう。人の手になる檻など、竜の前には枯葦の穂にも等しい。
「よくさえずる雛鳥だ…その胎に抱いた卵からは、どのような生き物が生まれるのだろうな」
「……汚らわしい!!」
王の視線をはねつけるようにトンヌラは叫んだ。少女が歌を続けながら戸惑った視線を
王に向ける。新しい玩具を前にした子供のように顔を上気させ、王は懐に手をやった。
掌に収まる、硝子でつくられた砂時計を篝火にかざす。粉雪のような微細な砂の粒子が
小さな空間で舞い上がる。トンヌラはそれに見覚えがあった。古い魔法学の教本で
目にした古の魔導器ーーー"ときのすな"。
「十月十日は待ちきれぬな」
はっとした表情の少女が幾度も首を振るのを無視して、王は魔導器を放った。トンヌラの
足元はるか下の床で脆い硝子は微塵に砕け散った。粒子のこまかい砂が煙のように
舞い上がり、白い下腹にまとわりつく。

「は……アァアア!?」

ーーーみしっ。
骨盤の軋む音がはっきりと響いた。
 解放された砂の魔力は時流を狂わせ、トンヌラの時計を進ませる。固い子宮を強引に
内から膨らませ、骨を押し退けながら尋常ではない速さで胎児が成長を始めていた。
「はぐうぅぅぅっ!!イヤ……いやぁーーー!!」
その先に起こることに思い至り、トンヌラは絶望の叫びをあげた。その悲鳴が最上の
音楽ででもあるかのように、ヴェスティアは満足げな吐息を漏らす。

目の前で椋鳥の卵が砕けたなら、竜はどのような咆哮をあげるだろう。
怒れる竜は全ての獣のなかでもっとも危険で、そして美しい。

「疾く…竜よ、わがもとに……!!!」

甘美な妄想に溺れながら、王は山彦の笛の音を待ちわびていた。


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Date:2009/12/12
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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