トンヌラ頑張れ。超頑張れ。

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□ diva affonda □

Diva affonda・7

「しりゅうまどろむ みねみねに……おふるましろは かみとりの…………」

 限りなく優しい子守唄が寒々とした広間に流れていた。血腥い獣の獄にはあまりにも
似つかわしくない声。しかし、もしその歌を耳にするものがあったならけして歌い手が
狂気に囚われているのでも自棄になっているのでもないことが窺えただろう。
それは誰しもが母親の胸に抱かれていた幼い頃を思い出さずにいられぬような、
甘くもどこか哀切を秘めた歌声だった。伴奏のように、やや甲高い少女のハミングが流れている。
「ぁ………………」
母親を励ますように元気な動きを見せていた胎児がゆっくりと眠りに入ったのを感じて、
トンヌラの子守唄はとだえた。
「もういいよ、ありがとう」
その声に幼い旋律が止む。
「すこし休んだほうがいいよ、シエロ。ずっと歌い続けじゃない」
「ワタシ……ダイジョウブ……ゴメンナサイ、オキサキサマ」
「ほら、また謝る」
 少女をたしなめるように笑ってみせる。白いトンラの腹は重たげに膨れ上がり、胎内で身じろぎ
する赤子のかたちがそれと見て取れるほどだ。"ときのすな"の魔力は四月にも満たない胎児を
急激に成長させ、その大きさはもはや臨月に差し掛かっていた。
腰まで伸びた黄金の髪は手入れされないまま、たわわな裸身をかろうじて覆っている。
折角伸びた髪なのだ。梳り、丁寧に結い上げてズィータに見せてみたいと思った。
似合わないな、と馬鹿にされるだろうか。不満げな主の表情を思い浮かべると自然と笑みが
こぼれる。シエロはそんなトンヌラを不思議そうな目で見つめていた。
「オキサキサマハ、ヤハリ女神デス。……コンナ状況デモ、ヤサシイ笑顔デイラレル」
少女の言葉に、微笑んだ顔のまま首を振る。本当は不安と絶望が今にも心を押しつぶして
しまいそうだった。偽りを抱いたか弱いサマルトリアの王子であったなら、耐えられたか
どうかは定かでない。……けれど。こんな出来損ないの身体でも、必要としてくれている
者たちがいる。自分は王妃であり、妻であり---母親なのだから。
「……ワタシ、オキサキサマノ国ニ生マレタカッタ」
「今からだって遅くないよ……王様にお願いしてあげる。いっしょにお城に住もう。
 だいじょうぶ、みんなやさしい魔物たちばかりだから……」
ちょっと見た目は怖いかもしれないけど、と付け足す。
つられて微笑んだシエロは、しかしすぐ瞼を伏せた。
「ワタシハ……オキサキサマヲ……ゴメンナサイ…………」
「……シエロ?いったい、どうし……ぁっ」
少女に問おうとしたとき、トンヌラの内股の紋章がひときわ熱く疼いた。眠っているはずの
赤子がびくんと身じろぎする。ズィータだ。ズィータがすぐそこまで来ている。
 獣たちの噛み合いを鑑賞する迫り出しに静かな靴音が響き、仮面の王が姿を見せた。
「……感じるか?竜の羽撃きを」
トンヌラはどうにか気力を振り絞り、伸びた前髪の間から王を見下ろした。
「来い、化け物。いよいよお前の舞台だ」
王に手招かれ、少女は身をこわばらせる。その肌と同じ青く透き通った涙の雫が頬にこぼれた。
「……来い。生み出された恩を忘れたか?」
静かな、しかし絶対的な強制力をもつ声音がふたたび少女を呼ぶ。
「オキサキサマ……ユルシテ………………」
悲し気な呟きを残して一度だけ振り返ると、シエロは王の元へ走り去って行った。
軽い足音の残響が消えた大広間には、天井近く吊るされた金髪の神鳥だけが残された。
「……竜王が人の王よりも、或は竜の長よりも高位の存在である理由がわかるか?竜と人、
 ふたつの御魂を同時に抱いているからだ」
ずきん、と紋章が脈を打って痛む。……来る。あの人が。
「竜王の中の"人"が倒れたとき---そこに居るのは---純然たる至高の---竜だ」
舞台の幕開けを報せるかのように、王は高らかに指を鳴らした。大広間の空間を満たす
空気が一変する。何も無い空中に火花があがり、微細な埃が稲光を発して燃えあがった。
物理結界のひとつ---"バリア"と呼ばれるものだ。ロンダルキアの魔物を防ぐため、
ベラヌールの祠にも同じ仕掛けが施されていたのを覚えている。
(そんな……ズィータさま……来ないで…)
大広間の重い扉が音を立てて開く。長身痩躯の影が---竜の気迫を纏って立っていた。
「トンヌラぁ!!!!」
その雄叫びは人の言葉となって地を揺るがせた。
「だめ……来ちゃ駄目ーーーーーーーーー!!!」
血を吐くような叫びと同時に閃光があたりを覆う。飛び込んだ竜王の身を結界が捕らえ、
灼き焦がしつつあった。激しく散る雷のなかを揺るぐことのない足取りでズィータは
歩を進める。顔に巻き付けていた布が黒煙をあげ、燃え上がる。
あらわになる黄金の瞳は怒れる竜そのものだった。
 ---ふいに稲妻が止む。トンヌラを囲む様に張り巡らされた結界の中心にたどり着いたのだ。
「ズィータ……さ……」
「…………馬鹿が……さんざん探させやがって……」
はるか頭上を見上げながらズィータはいつもの口調で言う。
「…………どうして…………僕なんかのために………………」
堪えに堪えていた涙が止め処なく溢れた。愚かしい問いとわかっても、口にせずには
いられない。
「……言わなきゃ分からないか……てめえは……本当に馬鹿だ」
常人ならば既に最初の数歩で跡形もなく燃え尽きていたであろう閃光に晒され、
さしもの竜王も"人"としての体力はもはや底をついていた---そこに居るのは人間の薄皮を
まとった竜であったのだ。
「待て……今すぐ其処から降ろしてやる。こんな獣臭い場所からはおさらばだ」
ふらつく足をなんとか抑え、ズィータが歩き出した刹那……歌が聞こえた。少女の歌が。
(え…………!?)
聞き覚えのある旋律。それはトンヌラが幾度も歌った、雪の台地の子守唄そのものだった。
けれど、歌詞は違う。耳慣れない抑揚と文節。聞き取る事の出来ない言葉。彼らには分から
なかったが、いにしえの時代ミッドガルより竜の祖、女王卵とともに齎された……古代語だった。

其のかいなは 鎖にて
其の翼は 杭打たれ
其の眼は 潰るるや
眠れ 荒ぶる竜
眠れよ 永劫の水底に


人間にとっては意味をもたない呪詛。だが---
「ぐ……畜生……なん……ッ!!」
「あぁ……ズィータ様……!」
十重二十重に意識を縛ろうとする呪詛に最後の人の意識が抗うが、猛り狂う竜の血はもはや
止めようもない。

----------眠れ!!

シエロの歌声がリフレインすると同時に、ズィータは床に倒れ伏した。

「トン……ヌラ………………」

意識を失う瞬間、かすかに下僕の名を呼びながら。




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Date:2009/12/18
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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