トンヌラ頑張れ。超頑張れ。

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□ diva affonda □

Diva affonda・9

「おお……おお…………!!!なんと………………これが竜王……素晴らしい……!!!」
石と化した骨に何度も何度も思い描いたそのままの姿。僅かに王の面を過った恐怖の陰は
それをはるかに上回る歓喜に塗り潰されていた。竜の顎が神鳥の鎖を噛み砕き、掬いあげた
赤子もろとも翼の皮膜に受け止める。トンヌラは泣き声をあげ続ける赤子を抱き寄せ、
伸びた髪でその身を包んでやった。竜王は吼え、強靭な前肢のあいだにベスティアを
押さえ込んだ。灼熱の塊が喉元からせり上がり、牙の合間に光が漏れる。
炎のブレスを放とうとした刹那、竜王は翼の重みにふっと意識を移した。
産まれたばかりの赤子と、妻の体重。
「ズィータ……さま……」
哀し気な蒼い瞳。かすかに残る人の意識がズィータを逡巡させ、今一度王に視線を移す。
仮面の王は---満面に、悦楽の笑みを浮かべていた。至高の存在である竜王の炎に
灼かれることこそ、この男の夢であり最上の歓びだったのだ。
肉を焦がす灼熱の火炎の代わりに放たれたのは、城全体を揺るがさんばかりに轟く咆哮。
幾重もの牙の合間を縫って紡ぎ出される和音は或る魔法と同等の効果をもって獣の獄を
満たした。金属が撓み、弾ける鈍い音が雨垂れのように響く。それを確認して、巨竜は
王の上から前肢を退けた。
「な……?」
甘美な死を待ち望んでいたベスティアの顔を困惑が覆う。やがて、魔獣達の檻が押し開く
きしみが聞こえた。刻苦に正気を失った数多の眼がゆっくりと王に近付いて来る。
眼前の光景を妻の視界から遮るように竜王は雄大な翼を広げた。アレフガルドの紋章にも
ある完成された姿に、王はいっとき我を忘れて見入った。
なんと美しいことか。神の生き物をひとが縛ろうなど、やはり愚かなことだったのだ。
---ようやくにして悟った彼を、後頭部にかかる生臭い息が現実に引き戻す。振り向いた
王の目に映ったのは、彼の手による"出来損ない"たちの群れ---
わずかに竜王が目を細めたのを合図に、魔獣たちは一斉に飛び掛かった。





 暴虐をもって知られたデルコンダル王ベスティアは、それより歴史から姿を消した。
最初に兵士達が発見したものは、すべて空となった夥しい魔獣の檻と血痕……それから、
王の仮面ただひとつだった。この場所で何が起こったかは想像に難くなかった。
王はあまりに生命の神秘を弄びすぎた。それ故、主、マスタードラゴンの怒りを買った
のであろう……城下町の古老はまことしやかに語った。町の者たちの中には王城から
飛び立つ神々しき竜の姿を見たものも居たというが、真偽は定かでない。
 新たに王位を継いだ男は竜の噂を民に禁じ、土中から掘り出された古代の骨もすべて
埋め戻させた。これで良い。もともと、ひとの触れるべき領域では無かったのだ。
その霊威を纏うことが許されるのは同じ神の血を持つものだけ---
新王はかつてまみえた人の姿を真似た竜を……その黒い髪と黄金色の瞳を思い出していた。





「へへ……ほっぺぷくぷくだ、かわいいな」
「いそいで僕らに会いに来てくれたんだね、ありがとう」
ロンダルキア城の一室。双子の少年は無心に母の乳房を吸う小さな妹に目を輝かせて
見入っていた。湯をつかわせ、産着を着せられた赤ん坊の姫はさも気持ちが良さそうに
母に抱かれている。心なしか小柄だが、健康そうにふくらんだ頬。
やわらかな金髪は母親譲り、鼻筋の通った怜悧な顔立ちは父親譲りだった。
「急だったから、あたらしい産着を用意してあげられなかったな」
兄のお下がりを着せられた姫をながめ、トンヌラはちいさく口を尖らせる。
「赤ん坊に服の好みも何もねぇだろ」
「もー、そういうことじゃないでしょう」
苦笑する妻の頭をズィータはくしゃくしゃと撫でる。伸びた髪はゆるやかに結われ、
貴婦人のように頭頂でまとめられていた。
「…………その頭も……悪くないぞ」
視線を逸らし、竜王はごく小さく呟く。
「え?ズィータ様、いまなんて……」
「あ゛ー!聞こえなかったならいい、気にすんな!!」
「かあさま、僕聞こえてたよ。あのね……」
「言うなッ!……それより、そろそろ餌の時間だろう」
「あ、そうだ」
「行こ、フォル。みんなおなかすかせてるよ」
小さな王子たちはそっと妹姫の頬を撫でると、二人競うように駆け出して行った。
「あの子たちも、だんだん元気になっていくみたい。よかったな」
「……ふん」
デルコンダルから連れ帰った魔獣達はひとまず城の中庭に飼われ、体力の回復したものから
放されていくことになった。魔獣と意志を疎通させられるシドーのお陰で、ことは順調に
進んでいる。
 乳を飲み終えやすらかな眠りについた娘を、トンヌラはしずかに布団に寝かせた。
「……ズィータさま……」
「…………」
身を寄せて来る妻を、ズィータはぎこちなく抱きしめる。それが精一杯だった。
優しい言葉の掛け方など知らない。今はトンヌラにも分かっていた。甘い囁きも贈り物も、
なにも無くとも、これが彼の最大級の愛情の示しかたなのだと。もう二度と愚かな迷いに
とらわれたりしない。
 子供たちから解放されたひとときの間、二人は恋人同士のキスを交わした。
『…………………………』
きゅるきゅると不思議な音色を聴き、あわてて身を離す。足元の床で三体のスライムが
いたずらっぽい目付きで見上げていた。
「なッ、お前ら!覗いてんじゃねぇ!!」
「しー、カリーンが起きちゃうよ」
指を一本口にあて、真っ赤になって声を荒げようとするズィータを諭す。スライムたちは
顔を見合わせ、たのしげに笑い交わした。規則正しい寝息を立てていた赤子が、煩さ気に
むにゅむにゅとぐずりだす。
「ほら、もう」
ズィータは知るか、というように口をへの字に結んでそっぽを向く。
「シエロ、子守唄を歌ってくれる?」
トンヌラの言葉に、スライムたちはうれしげに跳ねながら頷いた。三体のスライムが
集合して積み重なると、ぽよんと揺れて一体のやや大きな-ちょうど、細身の少女と
同じ程度の-スライムに変じる。もう人の姿をとることも喋る事もできないが、歌だけは
覚えていた。



満月の湖畔に銀の船 ゆらりゆらりと漕ぎ出して あの子の眠る 水底へ
紫竜微睡む峰々に 降る真白は 神鳥の 柔らな翼 抱かれて……




空の色をしたスライムは、優しい子守唄のメロディーを王妃とともに口ずさみ始めた。



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Date:2009/12/22
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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