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□ 短篇(冒険中) □

Ave Maria

---綺麗な瞳をしている。初めて彼に会ったとき、マリアはそう思った。月の都では殆ど見かけない
夜闇の瞳。表情の無い陰気な目の子供だ、と口さがない大人達が噂するのをマリアは幾度も耳に
した。鮫の目をした王子だと。けれど……光線の加減だったのだろうか?そのとき、王子の瞳は
琥珀のような---或は秋の陽のような、深い黄金の輝きを抱いていたのだ。

「はじめまして……ズィータさま。ムーンブルクより参りました、わたくしはマリアと申します。
 このたびは……」
少年はマリアの挨拶を遮るように、大儀そうな会釈をする。ふたたび顔をあげた時その目は
表情の読めない鴉色に変わっていた。
 気侭で愛想の無い厄介者の王子。件の大人達はズィータをそう評していた。王子はマリアより
五つばかりも年下の幼子であったが、歳相応のやんちゃぶりやこましゃくれた可愛らしさは
みじんも感じられなかった。だが、マリアにはそれが大人達の言うような理由故とはどうしても
思われなかったのだ。怒りよりも哀しみが、傲慢よりも孤独が幼い貌を包み込んでいる気が
してならなかった。
 存命であった頃、祖父はかなり熱心にズィータをマリアの婿に迎えようとしていたらしい。
そこには同じロトの血を引く王家のものであるという以上の理由があるように感じられたが、
何故かその話はローレシア王の強い反発によっていつの間にか立ち消えたのだった。将来は
さぞや美貌の青年になるだろうに、ちょっぴり残念だな---若い娘らしい無邪気さで、マリアは
少しそんなことを考えた。
 弟である第二王子の産まれた祝典の日でさえ、ズィータは少しも嬉しそうではなかった。
『お母様を取られたようでお寂しいのでしょう。かの竜児もやはり子供ですわね』
年かさの女がしたり顔で語るのを、マリアは首を傾げながら聞いていた。そんな可愛らしい
感情であってくれれば良いのだが。
(……あれ?あの子……どこへ行ったの?)
気付けば、王子の姿は城から消えていた。いつの間にか窮屈な祝いの席から抜け出して
いったのだろうか。それでも大人達は産まれたばかりの第二王子と国王夫妻に掛かり切りで、
寂しい少年の行方など誰も気にも止めていない様子だった。
 感情がないのではない。上手い現し方を知らないのだ、あの子は。
その理由がマリアにはすこし分かったような気がした。多感な時期、ふつうの子供ならば
たくさんの大人や友達と接して自分というものを知る。挫折と反発を繰り返し、一個の人格を
つくりあげていくのだ。けれどズィータの周りには、心を許せる相手など居ないように見えた。
……自分が、もっと自由にローレシアへ出入りの出来る環境にあったならば。
月の都よりついてきた護衛の神官兵を盗み見ながら、マリアはちいさく溜息をついた。

 王子が戻って来たのは日も傾いた夕暮れ時になってからだった。帰り支度を整え正門へ
差し掛かったとき、ちょうど戻って来た彼と運良く鉢合わせたのだ。
「ズィータ様!どちらへいらしていたのですか?」
「………………」
王子は一瞬はっとしたように視線をあげ、少しの間マリアの貌を観た。が、どんなことを
考えていたのか、どこか落胆したような様子で首を振る。彼は黙ってマリアの脇を通り抜け、
城内へ足をむけた。その背中がひどく小さく見えて。
「…………!」
知らず知らず、マリアは幼い王子を抱きしめていた。
「…わたくし、心配してしまいました……いけませんよ、誰にもなにも言わずに
 いなくなっては」
困惑した様子で、小さな身体がこわばる。今のローレシア王妃は彼の実母ではないと
いうが---明らかに、ここ数年「母親」にも抱かれたことがないのだ。
かわいそうに、かわいそうに。滲む涙を必死にこらえる。このひとりぼっちの王子様を
包み、癒してあげることができたなら。しかし、ズィータは身をよじってマリアの抱擁を
乱暴に振りほどくと後ろも見ずに駆けて行ってしまった。からっぽの腕に残るわずかな
温もりに、マリアは悟った。
---きっと、わたしでは駄目なのね。あなたを癒してあげられるのは、わたしではなくて…
あなたが内なる孤独な竜と向き合い、自分自身で乗りこなすきっかけを与えられる誰か。
どんなに拒否され傷つけられても海容する、女神の魂を抱いた誰かなのでしょう。
試練のときは長いかもしれないけれど……かならずその人に会えるから。
わたしには分かります。だから……どうかそれまで、闇に沈まないで。
 祈るような気持ちで、マリアは少年の去って行った城門を長い間見つめていた。
「……マリア様?」
共の兵士が不審げに声をかけてきても、マリアはなかなか動こうとしなかった。

……何故なのかしら。もう…ズィータ様と話をする機会は、訪れないような気がするの。



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Date:2010/01/01
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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