トンヌラ頑張れ。超頑張れ。

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□ 短篇(ロンダルキア編) □

しあわせについて。

「……しあわせです」

腕の中の妻がふっと呟く。森々と降りしきる雪に雑音は掻き消され、微かなその声は
仄暗い寝室ではっきりと彼の耳にも聴こえた。またか。理由の分からない苛立ちを覚え、
ズィータはやにわに妻の金髪をくしゃくしゃとかきわした。
「ひゃうっ!な、なにするんですか」
甘い夢にたゆたっていたトンヌラはいささか間の抜けた声で抗議する。
「うるせえ」
とりたてて近頃始まった---訳ではないが、回数は確かに増えた。
子らから野の花の束を贈られたとき。竃から出来立ての焼き菓子を取り出し、その
出来映えを確認するとき。
……そして、今のようなとき。さして特別でもない場面で、トンヌラは『幸せ』と
いう言葉を口にする。
(そんな訳がねぇだろうが)
恵まれた土地で家族や臣下に囲まれて育って来た王子。それが身分も人格も
否定され、雪深い魔物の城に囚われて、幸せな筈が無いのに。
「そんなの、他人が測るものじゃないですよ。僕が幸せだと思うときに、幸せなんです」
「……あ?んだよ、お前……っ」
心中を読んだかのように微笑まれ、ズィータは狼狽えた。
「まあ……ある意味間違っちゃいねぇかもな。お前は年がら年中頭が花畑みてえな
 もんだから」
ひどいなー、と幸せな王妃は可愛らしく口を尖らせる。
「それじゃ、ズィータ様はどうなんですか」
「………………」
改めて妻に問われ、彼は暫し沈黙した。"幸せ"とは---自分が求めていた幸せとは、
一体なんだったのだろうか。ロトの王家に復讐すること。世界の覇権を握ること。
かつて求めていたものは、幸せという言葉で表せはしない。
「わからない……んですか?」
トンヌラの面を、母のような憐憫の表情がかすめる。苛立たし気にズィータは視線を
逸らした。その頬に柔らかな指先が触れる。
「じゃあ、子供のころはなにを夢見ていたの?」
「馬鹿な……夢なんて…………」
欲しかったものは。ただ。
「あるんでしょう?」
「…………………………」
抱きしめてくれる母の温もり。自分を認めてくれる父の言葉。競い合う友の存在。
それはあまりにありふれた望みで、口に出すことも出来ない。……家族だ。
「そう……いいな、ズィータ様は」
囁きながら、トンヌラの腕が背中を抱きしめる。
「子供のころの夢が叶うのは、いちばん幸せだと思うな」
図星をさされた子供の様に、竜王の頬に血が逆上せる。
「てっめ……俺は…幸せだっていうのか?」
「他人が測るものじゃないって、言ったじゃありませんか」
闇と光を束ねることさえ可能な竜の王が---なんと矮小な。
「そんなことありません……あなた自身が気付いて、築き上げたものなんですから」
サマルトリアの奴隷姫の心を壊し、廃人になるまで追い立てる事も---邪神の器となった
我が子を闇の手に引き渡す事も---望めば容易いことだった筈だ。
だが彼はそうしなかった。望みに背を向けながら藻掻く自分に、おそらくは
気がついていたから。
「あなたが自分の幸せを求めたから……僕も幸せになれたんですよ」
ありがとう。あいしてる。
一番言われたくて、一番言われたくないふたつの言葉を囁くトンヌラ。ズィータは
生の満月草を齧ったような渋面をつくった。
「てめぇ……なんで俺の考えが分かる」
「え、だって………その…………わかるでしょう?」
満面を朱に染めてもじもじと口ごもる。
「何が」
「ほら。つながって……たら…、相手の考えてる事くらい……え?わからないの?」
夫の表情に、どうやら相手にはそれができないらしいとトンヌラは気付いた。
きょとんとした妻の表情に、何度も果てた筈の胎内の熱はにわかに脈動を再開する。
「え?え?そうなのー!?しらなかった!」
「……の野郎ッ!!忘れろ!オラッ!!」
「ひゃあああっっ」
竜の貪欲さで、ズィータはふたたび幸せな妻の肢体をシーツの海に沈めたのだった。




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Date:2010/01/18
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